オムロン株式会社 データソリューション事業本部 インタビュー/60年ぶりの新事業、DSBは新たなビジネストランスフォーメーションを先導

創業から90年超。オムロン株式会社が今、新たな成長ステージに向けて動き出しています。
2020年にオムロンに入社した執行役員常務 CDXO 兼 データソリューション事業本部長 石原英貴氏が牽引するデータソリューション事業本部(DSB)は、既存の4つのビジネスカンパニーに続く5つ目の事業の柱として、「モノづくりからデータを活用したソリューションビジネスへの進化」を担っています。
長年にわたり培ってきた現場の知見とデータの活用で、モノづくり中心の事業構造から、データを起点としたソリューションビジネスへ──DSBは、オムロン全体の事業変革を体現する存在です。
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オムロンが抱えていた「60年間、新しい柱が生まれていない」という構造課題
江頭
まずは、これまでのキャリアを教えていただけますか。
石原様
キャリアのスタートはエンジニアですが、その後はコンサルタントとして、さまざまな企業の変革や新規事業に関わってきました。キャリアを選ぶ上で一貫して意識してきたのは、「世界初の挑戦に、主体的に関われる環境かどうか」という点です。
新卒でソニーを選んだのも、すでに出来上がったものを追いかけるのではなく、まだ前例のないことに挑めるフィールドだと感じたからでした。その後も同じ軸で、自分がどこで挑戦するのかを考えてきたと思います。
オムロンとは、外部パートナーとして新規事業の構想づくりに関わる中で出会いました。
その挑戦に、より深く関わりたいと考え、2020年に入社しました。
石原様
外部パートナーとして関わっていたころ、当時の経営会議で「このままではオムロンは成長しない」という議論が繰り返し行われていました。オムロンは1933年の創業以来、現在の事業につながる新規事業を次々と立ち上げ、結果として4つのビジネスカンパニーを形成してきました。
ただ、4本の柱は太くなったけれど、5本目、6本目は生まれていない。成長が鈍化した根源的な要因でした。
江頭
その議論を経て、5つめのビジネスカンパニーとしてDSBが立ち上がったわけですね。
石原様
長期ビジョンの議論の中で、オムロン全体を「モノ売り」から「データを活用したソリューションビジネス」へと進化させる必要がある、という方向性が明確になり、医療ビッグデータを扱うJMDCのグループインを経てDSBが設立されました。
JMDCのケイパビリティとオムロン全社のケイパビリティをかけあわせ、データを起点としたビジネスモデル転換を推進していきます。

オムロン×JMDC。2,000万人の「結果」と「日常」をつなぐ、世界唯一の予防医療プラットフォーム
江頭
DSBが目指している「世界初」の領域について、具体的に教えてください。
石原様
JMDCのグループインによって、ヘルスケア領域における「予防医療」は大きな強みとなります。この分野では、オムロンとJMDCの組み合わせは、世界で見ても唯一無二の存在になれると考えています。
JMDCは、約2,000万人規模、十数年分にわたる医療のアウトカムデータを保有しています。いつ、どんな診断を受け、どのような病気になり、最終的にどういう結果に至ったのかまで追える、極めて希少なデータです。
一方でオムロンは、血圧や活動量といった日々のバイタルデータを長年蓄積してきました。ただ、これまでは「その人が最終的にどうなったのか」という結果を知ることができなかった。今回、この「結果」と「日常の変化」が初めてつながるのです。
これにより例えば、痛風のような疾患であれば、データから「数週間後に再発する可能性が高い」ということがかなりの精度で予測できます。そうすると、「今週はお酒を控えた方がいい」「薬をきちんと飲んでおいた方がいい」と、本人が具体的な生活改善に取り組みやすくなると言えます。
この考え方を突き詰めていくと、脳梗塞や心筋梗塞といった、命に直結する疾患を未然に防ぐことも射程に入ってきます。これまでは部分的なデータしかなく、誰もが手探りでやってきました。でも、我々はアウトカムに突き合わせて検証できる。だからこそ、本当に価値のある提案ができるのです。
究極的には、寿命と健康寿命のギャップをいかに縮めるか。これは日本が世界に先駆けて直面している課題でもあります。このフィールドで成果を出すことができれば、オムロンの取り組みは、世界に対しても1つのモデルケースになり得る。そう信じて、取り組んでいます。
江頭
JMDCとの取り組みは、ヘルスケア領域に特化しているのでしょうか?
石原様
JMDCとの取り組みはヘルスケアに閉じたものではありません。
オムロンのコアコンピタンスは「オートメーション」です。センシングによって状態を捉え、シンク(思考)によって判断し、コントロールによって介入する。このフィードバックループが回るものは、すべてオートメーションだと考えています。ヘルスケアに限らず、社会システムやファクトリーオートメーションなど、センサーを起点にデータが生まれる領域全般に共通する考え方です。
そうした前提のもと、DSBは、JMDCと共に既存の事業に対しても横串でソリューション開発やビジネスモデル転換をドライブしていく役割を担っています。
ただし、この「横串」を本当に機能させること自体が、次の大きな課題でした。

意思決定の構造を変えて横串を機能。投資と成果の責任をカンパニー間で共有する
江頭
横串を機能させることに難しさを感じられる中で、石原様はどこに本質的な課題があると考え、どう打ち手を設計したのでしょうか。
石原様
いわゆる「横串」の機能は、やり方を間違えると必ず主従関係になります。主と従の関係になると、意思決定権は主側にある。そうなると、どれだけ正しい構想を描いても、結局そこで止まってしまうのです。
実際、最初は私もいろいろ試しましたが、同じ社内であっても、イニシアチブを持つ側と支援する側という関係性は、コンサルとクライアントの関係と本質的には変わらない。意思決定の構造を変えない限り、変革は起きないと確信しました。
そこで、主従の関係そのものをなくすために、オムロンの中で「横連結」という新しい会計の考え方をつくりました。カンパニーをまたいで、同じ数字に対して責任を持つ仕組みです。
あるビジネスについて、現状の売上や利益率を踏まえた上で、「2030年までに、このビジネス全体をどこまで伸ばすのか」という目標を両者で共有する。投資計画はそれぞれが立てるけれど、評価は合算した成果で行うというものです。
江頭
意思決定の構造自体を変えていくのは、かなり大胆な仕組みですね。現場の動きも変わりましたか。
石原様
劇的に変わりました。例えば社会システム事業の保守メンテナンスは、もともと電話があれば人が駆けつける「人型」のビジネスでした。これをデータによる予兆メンテナンスに変えようとすると、どうしてもシステム投資が必要になります。
でも、「連携しろ」と言うだけでは何も変わりません。同じゴールと数字に責任を持つ仕組みをつくることで、初めて現場から「できない理由」を並べる声が減り、前に進み始めました。これは、コンサル時代の経験から行き着いた打ち手です。物事が進まない根源的な理由は、現場ではなく、意思決定の構造にある。そこを変えない限り、どんなに美しいフレームワークを持ってきても意味がありません。
「言葉」ではなく「スモールサクセス」で意思決定者の分解能を上げる
江頭
経営としての意思決定にも関与する石原様が、大きな意思決定を促す上で最も意識していることは何でしょうか。
石原様
一言でいうと、「想像力の分解能」ですね。人によって、新しい物事をどこまで具体的に想像できるか、その分解能の粒度はまったく違います。
最初の頃は、何とか言葉で分かってもらおうとしていました。でも途中で、「これ、あかんな」と気づいたのです。人は、見えないもの、想像できないものについては決断できない。
だから、途中からやり方を変えました。「未来ではこうなります」という話をするのをやめて、小さくてもいいから、まずやる。そして「こういうことをやると、こういう結果が出ます」「ここまでできるようになります」という“実物”を見せる。いわゆるスモールサクセスです。
実物を見れば、「なるほど、こういうことか」と理解できる。すると、「じゃあ、こんなこともできるんじゃないか」と発想が広がっていく。その過程で、分解能が少しずつ上がっていくのです。
変化の時代は最大のチャンス。「内的管理型」のポテンシャルを解放するマネジメント
江頭
石原様ご自身もコンサルご出身で、ポストコンサルを含む多様な人材が集まっています。どのような考え方で人材を迎えているのでしょうか。
石原様
採用は、人を集めること自体がゴールではありません。その人が事業の中で価値を出し、成長し、結果を出すところまで含めて、組織として向き合うものだと考えています。
DSBでは、できるだけ現場に判断を委ねます。自分が詳しくない領域に上司が踏み込みすぎると、物事はうまく進まない。だから私は、「どうやりたい?」と問いを返すようにしています。経営の観点では助言しますが、技術や中身は任せる。生成AIのような新しい領域も同じです。
だからこそ、自分なりに考え、試し、前に進もうとする人が力を発揮しやすい環境になっているのだと思います。
ただし、任せる以上は結果から逃げない。コンサルタント経験者の方はすでに実感したことがあるかもしれませんが、この「任せる覚悟」と「逃げない覚悟」の両方が不可欠なのです。
江頭
今の時代背景も含めて、どんな人に来てほしいと考えていますか。
石原様
今は、極めて不確実で変化の大きい時代です。でも私は、むしろ最大のチャンスだと思っています。
だから重視しているのは、「内的管理型」であるかどうかです。自分の内側から、「こうありたい」「この事業をこうしたい」という動機が湧いてくるかどうか。スキルや知識は後から身につけられますが、やりきる姿勢は簡単には後天的に身につきません。
変化のない時代は、体制側にいる人が勝つ。一方、変化の時代は、新しいことに挑戦したい人にとって最高の舞台です。
オムロンには「SINIC(サイニック)理論」という未来予測の考え方がありますが、今はまさに「最適化社会」から「自律社会」への転換点。価値観が揺れ、混乱が起きるのは自然なことです。
この時代に、社会課題を本気で事業として解決したい。正解のない領域で、自分の意思で考え、決断し、責任を取る。そういう人にとって、今のオムロン、そしてDSBは、間違いなくフィットする環境だと思います。

ソニーでエンジニアとしてキャリアをスタート。MBA留学を経て、ドリームインキュベータ入社。事業/技術戦略立案・実行支援などに携わり、オムロンとのプロジェクトでは現長期ビジョン「SF2030」の策定等を支援。
2020年 オムロンに入社し、2021年より執行役員として全社横断の新規事業推進を統括。2023年には、データを活用したソリューションビジネスの確立と進化を目的にデータソリューション事業本部を設立し、本部長に就任。

オムロン株式会社は、独自の「センシング&コントロール+Think」技術を中核としたオートメーションのリーディングカンパニーとして、制御機器、ヘルスケア、社会システム、電子部品、そしてこれらの事業をつうじて取得した多種多様なデータを活用したデータソリューション事業を展開しています。1933年に創業したオムロンは、現在では全世界で約2.7万人の社員を擁し、130ヶ国以上で商品・サービスを提供し、よりよい社会づくりに貢献しています。

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