横河デジタル株式会社 インタビュー/「匠の勘」を超えたAIビール、化学プラント35日連続自動運転。製造業の「未解決問題」を解く横河デジタルの正体

横河デジタル株式会社 インタビュー/「匠の勘」を超えたAIビール、化学プラント35日連続自動運転。製造業の「未解決問題」を解く横河デジタルの正体

日本の製造業を100年以上にわたり支えてきた横河電機グループの知見(OT:Operational Technology)と、最先端のデジタル技術(IT/AI)を融合させ、製造現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)をけん引する横河デジタル株式会社。

今回は、元マイクロソフトのエンジニアであり、横河電機でAI事業を立ち上げてきた代表取締役社長の鹿子木宏明様と、内閣総理大臣賞を受賞した世界初の自律制御AI開発に携わっているAIコンサルティング部 マネージャーの髙見豪様にインタビューを実施。

同社の設立背景から、「未解決問題」への挑戦、現場に受け入れられる技術的理由、そして独自のカルチャーまで、熱く語っていただきました。

マイクロソフトから横河電機へ。「ワーク・ライフ・チョイス」とAIへの情熱

佐藤
まずは鹿子木様のご経歴からお伺いできますでしょうか。

鹿子木様
私は大学院で量子コンピュータなどの物理学系で博士号を取得した後、1996年にマイクロソフトのR&D部門にプログラマーとして入社しました。当時はまだ「AI」という言葉が一般的ではありませんでしたが、今でいう超小規模言語モデルのようなものの開発に携わっていました。

その後、2007年に横河電機へ転職しました。理由は「ワーク・ライフ・バランス」ならぬ「ワーク・ライフ・チョイス」です。若い頃は深夜までバリバリ働いていましたが、結婚し子供が生まれたことで、家庭との両立を真剣に考えるようになったのです。横河電機は社員の働き方を大切にする風土があり、ここで自分の力を発揮しようと決断しました。

入社後はプラント用のソフトウェア開発などを経て、データサイエンスやビッグデータの潮流に乗り、デバイスやシステムへのAI組み込みを推進してきました。そして4年前に横河デジタルが設立された際、社長に就任しました。私は根っからの技術者で経営に関しては素人でしたが、周囲のベテラン勢に支えられながら、技術者としての知見を経営に活かすスタイルでここまでやってきました。

鹿子木様

佐藤
続いて、髙見様のご経歴もお願いします。

髙見様
私は2010年に横河電機に入社し、当初は工業用機器の設定ツールなどのソフトウェア開発を担当していました。転機となったのは2016年頃、当時上司の上司という立場だった鹿子木から「AIをやってみないか」と声をかけられたことです。そこから製造業のデータ解析や、AIによる価値創出に取り組み始めました。

2018年からは奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)と共同研究を行い、自律制御AI「FKDPP(Factorial Kernel Dynamic Policy Programming)」の開発に従事しました。その後、実際のプラントでの実証実験を経て、2023年にはFKDPPが「日本産業技術大賞 内閣総理大臣賞」を受賞することができました。2022年の横河デジタル設立と同時に出向し、現在はAIコンサルティング部のマネージャーとして、技術開発とビジネスデリバリーの両面を見ています。

髙見様

佐藤
お二人は長くタッグを組まれていますが、どのような関係性なのでしょうか。

髙見様
当初は雲の上の存在でしたが、AIの活動を通じて個別にやり取りをするようになりました。私が壁にぶつかった時、鹿子木は技術的な視点も含めて具体的なアイデアをくれたり、ホワイトボードを使って一緒に議論したりと、同じエンジニアとして伴走してくれました。また、鹿子木は「教育」にも熱心で、新しい技術や設計手法をチームに広める活動も率先して行っていましたね。

鹿子木様
みんな優秀でした。髙見のような「AI First」を体現するメンバーがマネージャークラスに育ってくれていることが、今の横河デジタルの強みになっています。

経営と現場の板挟みを解く。「翻訳者」としてのコンサルティング

佐藤
改めて、横河グループにおける横河デジタルの設立背景とミッションについて教えてください。

鹿子木様
横河電機は創業以来、計測・制御機器などのハードウェア、いわゆる「OT(運用技術)」の領域で圧倒的な強みを持っています。一方で、近年の製造現場にはITの波が押し寄せています。しかし、世の中には「ITに強い会社」と「OTに強い会社」はあっても、その両方を深く理解し、統合できる会社は非常にまれです。「ITシステムを入れたが現場が使いこなせない」「ITとOTの連携が難しい」といったお客さまの悲鳴に近い声を聞く中で、その両方を理解し、最適な技術を提供するために設立されたのが横河デジタルです。

佐藤
コンサルティングの現場では、お客さまはどのような課題を抱えているのでしょうか。

髙見様
多くの企業で起きているのが、経営層と現場の「乖離」です。
経営層からは「AIを使って何か変革を考えてほしい」とトップダウンで指示が降ってきます。しかし、それを受けたIT部門はどう扱っていいか分からず、現場に行っても「毎日の操業で忙しいのに、そんな訳の分からないものを持ち込まないで欲しい」と拒絶されてしまう。IT部門は板挟みになり、我々にご相談いただくケースが多いです。

佐藤
そうした膠着状態を、どのように打開するのですか。

髙見様
実際に現場に入り込んで話を聞いてみると、実は「ここを自動化したい」「匠の技を継承できずに困っている」という切実な悩みが出てくるのです。
私たちの役割は、そうした「漠然とした悩み」や「現場の拒絶反応」を解きほぐし、「この課題なら、私たちのAI技術でこう解ける」という具体的な形に再定義することです。経営の意図と現場のリアリティの間に入り、技術的な解決策へと「翻訳」する力が、当社のコンサルタントには求められています。

髙見様

なぜ横河のAIはプラントで採用されるのか。「暴走させない」技術的根拠

佐藤
AIコンサルティング部の役割と強みを教えてください。

髙見様
私たちの特徴は、R&D(研究開発)とビジネス(顧客への価値提供)を「二足の草鞋」で遂行している点です。コンセプトは「AI First」。人中心だった業務をAI中心に捉え直し、業務そのものを変革していくことです。

鹿子木様
製造業のお客さま、特に化学プラントのような現場がAI導入を躊躇する最大の理由は「安全性」への懸念です。「もしAIが誤った判断をして、暴走したらどうするのか?」という恐怖ですね。
ここで横河の強みが発揮されます。当社の製品は、AIがどんな指令を出そうとも、既存の制御システム(DCS)側で「これ以上バルブを開けたら危険」「温度が上がりすぎている」と判断すれば、物理的に止めることができる「セーフティロック(安全機構)」を持っています。
この「最後の砦」があるからこそ、お客さまは安心してAIという新しい技術を現場に導入できるのです。AIベンダー単体では決して提案できない、OTを知り尽くした横河だからこそ提供できる信頼感だと自負しています。

鹿子木様

「未解決問題」への挑戦。「匠の勘」を超えたAIビール

佐藤
鹿子木社長は「未解決問題を解け」とよく発信されていますが、これにはどのような意図があるのでしょうか。

鹿子木様
横河電機が長年お客さまと接する中で、簡単に解ける問題や、工夫すれば解決できる問題の多くは既に解決されています。今残っているのは、過去に多くの人が挑んで敗れてきた「難問」ばかりです。これらは従来の手法では解けなかった問題ですが、AIという新しい武器を使えば解けるのではないかという直感があります。

佐藤
実際にAIで解決した象徴的な事例を教えていただけますか。

髙見様
1つは「ENEOSマテリアル様」との取り組みです。化学プラントの蒸留塔において、ベテランオペレーターが24時間365日監視し、手動で操作しなければならない工程がありました。熟練者が減っていく中で、この技術継承は喫緊の課題でした。
私たちはここに自律制御AI「FKDPP」を適用しました。実証実験で安全性を1つひとつ確認し、結果として35日間連続での自動運転に成功。今ではもう3年ほど稼働し続けており、品質安定化と省人化を実現しました。現場の方々のマインドセットも、「AIでこんなことができるなら、他でもできないか」と前向きに変化しています。

鹿子木様
もう1つ面白い事例として「AIビール」があります。ビールの醸造工程における「匠」の技をAI化するプロジェクトです。
開発の過程で、AIが「このタイミングで温度をこう変えるべき」という条件を弾き出しました。しかし、それを見た熟練の匠は「これまでの製造において試したことがない。一度持ち帰って本当に実施するか検討させてほしい」と慎重な姿勢でした。

佐藤
AIと匠の対決ですね。

鹿子木様
そうです。しかし、過去の膨大なデータを詳細に分析すると、AIの提案には合理性があることが分かりました。「一度だけ試させてほしい」と頼み込んでやってみたところ、酵母は死滅せず、それどころか今までの常識を超える素晴らしい醸造結果が出たのです。
人間はどうしても経験則や常識というバイアスにとらわれますが、AIはそれを軽々と超えていく。そこにAIのロマンがありますし、こうした「未解決問題」を解くことこそが我々の使命です。

「半歩先」を照らし、次世代へ。世界中から求められる技術

佐藤
現在のAIマーケットの動向と、御社への引き合いについて教えてください。

鹿子木様
グローバル、特に中東やインド、アジアからの引き合いが非常に強いですね。日本の市場は「ROI(投資対効果)はどうなのか」と慎重に検討する傾向がありますが、海外、特に新興国は「とにかく最先端のいいものを持ってこい!」「おととい持ってこい!」くらいのスピード感と熱量です(笑)。
国内ももちろん注力していますが、世界規模で見ても「省エネ」「省人化」「技能継承」は共通の課題であり、私たちの技術が求められています。

佐藤
御社が掲げるビジョンについて教えてください。

鹿子木様
横河デジタルのビジョンは「半歩先を照らし、次世代につなぐ」です。「一歩先」を行ってしまうとお客さまがついてこられず、乖離してしまいます。だからこそ、お客さまに寄り添いながらも、技術的には「半歩先」をリードして伴走する。
そして「次世代につなぐ」。これは若手の育成という意味もありますし、次世代の技術を見つけるという意味もあります。実際、AIコンサルのメンバーには年に数回、海外の国際学会に参加する機会を設け、「世界最先端を見てこい」と送り出しています。

部長以上は「知見の強制アウトプット」。学び合うカルチャー

佐藤
働く環境やカルチャーについてはいかがでしょうか。

髙見様
AIコンサルティング部には、データサイエンティストだけでなく、制御の博士号を持つメンバーや、大手通信会社出身者、SIer出身者など、多種多様なバックグラウンドを持つ人が集まっています。お互いの専門性をリスペクトし合い、気軽に相談できるフラットな雰囲気です。

鹿子木様
教育にはかなり力を入れています。特徴的なのは、私が部長以上のマネジメント層全員に対して「自分の知見をさらけ出すトレーニングセッションを持つように」と指示していることです。
「自分の過去の知見を全部出せ」と(笑)。ベテランが持っている暗黙知や、教科書には載っていない泥臭いノウハウを、形式知として若手に継承するためです。Teamsなどを活用して定期的に開催しており、学びたい人は貪欲に吸収できる環境を作っています。

佐藤
ワーク・ライフ・バランスについてはいかがでしょうか。

髙見様
一般的な戦略コンサルティングファームのような激務ではありません。あくまで「製造業基準」での忙しさです。残業時間は時期、個々人によって波はありますが、前向きに業務を取り組んでいただいている中で必要な残業をしていただいていると思います。私自身も家族との時間を確保しつつ業務を継続できています。

佐藤
最後に、御社へ興味をお持ちの方へメッセージをお願いします。

鹿子木様
私は「未解決問題を解きたい」「社会に貢献したい」という強い思いを持った方に来ていただきたいです。AIのツールを使えるだけの「ユーザー」ではなく、ビジネス視点を持ちながら、新しい技術で難問に挑み、お客さまと社会に価値を提供したいと考える方。
ただ座っていても解決策は降ってきません。自分で考え、現場に行き、泥臭く手を動かす。その結果として、世界のインフラを支えるような大きな仕事ができる。そんな環境に魅力を感じる方をお待ちしています。

髙見様
横河デジタルは今、まさに「成長痛」を感じるほど急成長しているフェーズです。国内外から多くの引き合いをいただいており、第一線で活躍できるチャンスが溢れています。
最近入社された若手の方も、入社早々にお客さまの前で堂々とプレゼンし、信頼を勝ち取っています。「自分の技術で社会を変えたい」「新しい領域にチャレンジしたい」という意欲のある方にとって、ここは最高のフィールドだと思います。ぜひ一度お話ししましょう。

鹿子木 宏明様 横河デジタル株式会社

東京大学大学院で博士(理学)を取得後、1996年にマイクロソフト入社。
機械学習アプリケーションの開発等に携わる。2007年10月横河電機入社。
プラントを含む製造現場へのAIの開発、適用、製品化等を手掛ける。
強化学習(アルゴリズム FKDPP)の開発者の一人。横河電機IAプロダクト&サービス事業本部インフォメーションテクノロジーセンター長を経て、2022年7月より横河デジタル代表取締役社長。2025年4月より横河電機 執行役を兼任。著書に『プラスサムゲーム』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 2023年)。『「強いAI」による AIファーストの実現』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 2025年)。

髙見 豪様 横河デジタル株式会社

東京工業大学知能システム科学専攻修士課程修了。2010年に横河電機株式会社に入社しソフトウェア開発に従事。2015年頃より製造業向けのAIデータ解析業務をはじめ、グループ会社工場向けのAIソリューション開発と並行し、2017年よりAI制御の開発に従事している。現職では製造業向けのAIソリューションサービスの企画/開発を行い、お客様の課題解決に向けたAIソリューションの提案を支援している。

横河デジタル株式会社

横河デジタル株式会社は、YOKOGAWAが培った製造現場での計測、制御、情報の知見や技術を活用し、AIや最新のデジタル技術を活かし、センサーから経営まで製造業の競争力強化をサポートするためのコンサルティングファームとして2022年7月に発足しました。
製造業の売上や利益の最大化に貢献するYOKOGAWA AIをはじめ、データやインフラの統合、製造現場のデジタル化、IT/OTセキュリティ、DX横断組織の形成まで、様々な製造プロセスの課題を解決するソリューションを提供します。

アクシスコンサルティング

アクシスコンサルティングは、コンサル業界に精通した転職エージェント。戦略コンサルやITコンサル。コンサルタントになりたい人や卒業したい人。多数サポートしてきました。信念は、”生涯のキャリアパートナー”。転職のその次まで見据えたキャリアプランをご提案します。

横河デジタル株式会社の求人情報

募集職種

DXコンサルタント

職務内容

・製造業を主とするクライアント企業様に対する課題のヒアリング、課題に対する提案活動を行い、DXコンサルティング・ビジネスを創出していただきます。
・顧客に伴走し、DX実施までをend to end で推進していただきます。

応募要件

【必須条件】
・コンサルティング業界経験者

【歓迎条件】
下記の知識、スキル、経験がある方、尚可
・製造業の業務経験・知識に精通している方
・プロジェクトのマネジメント・デリバリー経験のある方
・英語による実務経験がある方

Brand ブランド紹介

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