尾藤イサオ氏が語る、82歳・現役で舞台に立ち続ける理由【キャリア・ダイアログ ─ プロの仕事術 ─ vol.05】

尾藤イサオ氏が語る、82歳・現役で舞台に立ち続ける理由【キャリア・ダイアログ ─ プロの仕事術 ─ vol.05】

芸能生活64年。エルヴィス・プレスリーへの憧れから始まり、ビートルズの武道館公演を経験し、歌手・俳優・ショーマンとして第一線を走り続けてきた尾藤イサオさん。舞台『BACKBEAT』ではエルヴィス・プレスリー役を務め、キャリアの集大成とも言える時間を重ねています。

本インタビューでは、これまでのキャリアにおける分岐点や、舞台・音楽・表現を横断してきた背景、そして「好きなことを続ける」というシンプルで揺るがない仕事観について語っていただきました。

さらに、長く活躍し続けるために欠かせない健康との向き合い方や、ビジネスパーソンへのメッセージにも迫ります。

エルヴィス役への思いと『BACKBEAT』ファイナルに込める楽しむ姿勢

――舞台『BACKBEAT』では、初演からエルヴィス・プレスリー役を務められていますが、どのような思いで取り組まれていらっしゃいますか。

エルヴィスが大好きなので、その役をやらせてもらえるのは本当にうれしいです。もともと原作にエルヴィスは登場しないのですが、プロデューサーが「やるならエルヴィスを入れよう」と決めてくださって。そういう意味でも特別な存在ですし、毎日楽しみながら若い共演者たちと舞台に立っています。

――今回がファイナル公演となりますが、新たに意識されていることはありますか。

特別に何かを変えようという意識はあまりないですね。それよりも、とにかく稽古も本番も楽しく、大事にやること。それを一番に考えて、現場の空気を楽しみながらやっています。

ただ、自分の役は少し特殊で、他のキャストと芝居で絡むことがほとんどなくて。エルヴィスとして歌う役のため、みんなと一緒に物語を進めるわけではないので、その分、少し寂しさもあります。

ビートルズ武道館前座の原体験――1万人の熱狂が刻んだ記憶

――稽古をご覧になりながら、ご自身の経験と重ねることも多いのでしょうか。

そうですね。ちょうどビートルズの話にもなりますが、実は1966年にビートルズが来日したとき、武道館で前座として同じステージに立っていて。3日間で5ステージだったと思いますが、あの経験は今でも強烈に残っています。

稽古で毎日のようにビートルズの楽曲を聴いていると、もう60年も経ったのかと懐かしくなります。

――そのようなご経験を、共演者の方に伝えることもありますか。

「ビートルズはどうでしたか」と、よく聞かれますし、キャストにもよく話します。ただ、自分はどちらかと言うとエルヴィス・プレスリー派なので。

若い頃、テレビで初めてビートルズを見たときは「なんだ、このお坊ちゃんたちは」と思ったのが正直な印象でした。プレスリーは不良っぽさが魅力で、それに憧れて自分ももみあげを伸ばしたりしていましたから。

――その後、印象は変わっていったのでしょうか。

大きく変わりましたね。実際にステージを目の前で見たときの衝撃は忘れられません。

――それまでのご自身のステージとは、どのように違っていたのでしょうか。

それまで自分たちはジャズ喫茶など、150人から200人規模の場所で演奏していたので、環境がまったく違いました。

「日劇ウエスタンカーニバル」というイベントで3000人ほどのお客さんを前にしたことはありましたが、武道館で1万人規模の観客の前で演奏するという経験は、本当に別格でした。前座とはいえ、日本人の自分たちにも大きな声援があって、「これはやめられない」と思いました。

――ビートルズのステージはどのようにご覧になったのでしょうか。

一度だけ客席から見させてもらいましたが、それ以外はほとんどステージ袖や前方から見ていました。警備の関係で入ってはいけないエリアだったのですが、内田裕也さんと一緒にこっそり前に入って(笑)。

ステージから56メートルくらいの距離で、ビートルズの4人を見ていました。向こうもこちらに気づいてくれて、ジョージ・ハリスンが手を振ってくれました。

最初はお坊ちゃんだと思っていたのに、実際に目の前で見るととにかくかっこいい。ステージに出てきて、アンプにジャックを差し込んで、すぐ演奏が始まる。その瞬間のかっこよさは衝撃でした。

僕は当時22歳だったのですが、気持ちはもう13歳くらいの少年みたいな感覚で、ただただ「かっこいい」と感じていました。

――改めて振り返ると、どのような経験だったと感じますか。

とにかくすごかったの一言です。日劇の3000人規模でも大きいと感じていたのに、武道館での1万人近い観客の熱気、声援、空気感。あれは言葉では言い表せないです。

今でも武道館の前を通ると、「ここでビートルズの前座をやったのだな」と思い出しますし、そのときの空気や感覚がよみがえってきます。

そういう経験があるからこそ、今こうして『BACKBEAT』でビートルズの音楽に触れながら舞台に立てることも、とても感慨深いです。

寄席芸からロカビリーへ――プレスリーに影響を受けた革新的な挑戦

――これまで多彩なキャリアを歩まれてきた中で、振り返ってみて分岐点になった出来事やお仕事を挙げるとすると、どのタイミングになりますでしょうか。

1つ挙げるとすれば、やはりビートルズの武道館公演です。あれは大きな分岐点の1つだったと思います。

――やはりビートルズとの出会いが、大きな転機になったのですね。

そうですね。実際に会うことはできなかったですが、13歳のときにエルヴィス・プレスリーと出会ったことも大きいです。それまでは寄席芸人として曲芸をやっていました。三味線や太鼓のお囃子で、ナイフ投げなどをするような、いわゆる日本の曲芸です。

ただそこに、プレスリーのレコードを持ち込んで。たとえばお祭りの屋台で、監獄ロックをかけながら曲芸をやる。タイトルもロカビリー曲芸と名付けて、衣装も自分でデザインしていました。本来なら紋付き袴でやるところを、ストライプのマンボズボンを穿いて。そういうことをやっていましたね。

――かなり革新的なスタイルですね。

当時としては珍しかったと思います。プレスリーの映画を観て影響を受けて、衣装も真似して作りましたし、音楽もお囃子ではなくロックンロールに変えていました。

そういう普通とは違うスタイルだったからこそ、アメリカから声がかかって、ジャグリングで1年ほどアメリカを回ることもできました。

――そのジャグリングの経験は、現在の俳優業にもつながっていらっしゃいますか。

それは間違いなくつながっています。10歳の頃から師匠のもとで舞台に立っていましたから、いわゆる舞台慣れができていたと感じています。

高校生くらいでデビューする人は、やはり緊張もあると思いますが、自分は子どもの頃からずっとステージに立ってきた。その経験があるから、日劇の3000人規模の舞台でも、さらに武道館のような1万人規模の舞台でも対応できたのだと思います。

――アメリカでの経験も大きかったのではないでしょうか。

そうですね。1959年から1960年にかけてアメリカに行っていたのですが、そのときにダイナ・ショアのショーに朝丘雪路さんとゲスト出演もさせてもらって。本当に貴重な経験でした。

それから、マイアミでサミー・デイヴィスJr.のショーを見て。歌も歌うし、ドラムも叩くし、ものまねもするし、タップも踏む。ああいうショーマンになりたいと思いました。

エルヴィスのようになりたい、そしてサミー・デイヴィスJr.のようなショーマンにもなりたい。その思いはずっとあります。

ジャグリングから武道館、そして演劇へ――すべての経験がつながるキャリア観

――俳優としてのキャリアにおいても、分岐点となった作品はありますか。

『蜜の味』という作品で、ストレートプレイに出演したことも大きかったと思います。それまで音楽や曲芸が中心だったので、音楽の入らない純粋な芝居に挑戦したのは大きな経験でした。

――そこから俳優としての道が広がっていったのですね。

その後も石井ふく子先生にお世話になって、『ありがとう』などのドラマにも出演させていただきました。

自分としては、歌もやりたいし、芝居もやりたいし、タップダンスもやりたい。ミュージカルも含めて、いろいろなことに挑戦したいという思いがずっとあって、それを一つずつやらせてもらってきたという感じです。

――1つの分野にとどまらず、常に表現の幅を広げてこられたのですね。

これが分岐点だと1つに決めるのは難しいですが、子どもの頃のジャグリング、プレスリーとの出会い、アメリカでの経験、そしてビートルズの武道館公演。さらにストレートプレイへの挑戦。それぞれがつながって、今の自分があるのだと思います。

「この道一本」で生きる覚悟――ぶれない原動力は“好き”という軸

――長く第一線で活躍されている中で、これだけはぶれないと決めている仕事のスタンスはありますか。

やっぱり、とにかく好きなことをやるということですね。好きなお芝居、好きな歌。それをずっとやらせてもらってきました。

今年で芸能生活64年目に入るのですが、振り返ると、本当に好きなことを好きなまま続けてきた。それが一番のスタンスかもしれないです。「この道一本で食べていく」という気持ちは、ずっと変わらないです。

――そのスタンスが、長く活躍されている理由でもあるのですね。

そうだと思います。ぶれないというよりは、好きだから続けているという感覚です。

――長く活躍されるために、普段の生活で意識されていることはありますか。

ここ56年くらいですが、とにかく体です。この仕事は体が土台なので、健康でなければ続けられない。

特別なことはしていないのですが、お風呂が好きで、地方に行っても銭湯に行ったり、サウナに入ったりします。それと、1日だいたい1時間歩くようにしています。

ジムに行って鍛えるというよりは、家の周りを1時間くらい歩く。それをずっと続けていて。雨の日は休みますが、それ以外はなるべくやるようにしています。

――発声や歌のトレーニングなども、されたりするのでしょうか。

舞台の前に軽くハミングをするくらいで、特別な発声練習はあまりしていないです。新しい曲を覚えるときは別ですが、基本的にはまず体を整えること。声をどうこうするよりも、まずは体が大事。その中でも歩くことが一番だと思っています。


後悔はない――若い自分ではなく「今の自分」をねぎらうキャリア観

――ご自身のキャリアを振り返って、若い頃の自分に何か声をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか。

まったくないですね。後悔していることもないし、これをやめとけということもない。基本的には、若い頃の自分に何か言うことはないです。それよりも、今の自分に対して「よく頑張っているね」と言ってあげたいです。

――今のご自身に対して、ということですね。

そうですね。82歳になってもこうして仕事を続けているわけですから、よくやっているなと思います。

歩くことだって楽じゃないですし、毎日続けるのは大変ですが、それをやっている自分に対して、いい子いい子してあげたいです。

結局、体が元気でいられるから仕事ができる。だからこれからも、歩くことを続けながら、好きなことをやっていけたらいいなと思っています。

――最後に、本記事の読者であるビジネスパーソンの方々へ向けて、メッセージをいただけますか。

やっぱり、自分のやっていることに対して一生懸命やるということ。それが一番だと思います。

会社で働いている人もいれば、自分のように歌を歌ったり、芝居をしたりする人もいる。それぞれ違うけれども、結局は同じで、自分の仕事にしっかり向き合って頑張るということだと思います。

自分も若い頃は、とにかく与えられた仕事を一生懸命やる。それしかなかったので。そして、お客さんが喜んでくれる姿を見て、またそこからパワーをもらって、次につなげていく。

そしてやっぱり一番は体です。体がしっかりしていないと、どんな仕事もできない。特に自分の仕事は代わりがいないので。今日は体調が悪いから誰か代わりに行ってくれ、というわけにはいかない。だから365日、いつ声がかかっても動ける状態でいなければならないのです。

これは芸能界に限った話ではなくて、どんな仕事でも同じだと思います。自分にしかできない役割があるはずなので、そのためにも体を大事にすること。健康でいられることが、次につながっていくと思います。

尾藤イサオ 歌手/俳優

1964年にシングル「マック・ザ・ナイフ」でデビュー。昭和のロカビリー時代に平尾昌晃、ミッキー・カーチスと並んで日劇ウエスタンカーニバルで人気を博した。1965年にアニマルズのカバー「悲しき願い」が大ヒットし、翌年に日本武道館で行われたザ・ビートルズのステージでジャッキー吉川とブルー・コメッツ、内田裕也と共に前座として出演。1970年のテレビアニメ『あしたのジョー』主題歌が代表作となる。俳優としても、市川崑監督作品『股旅』やNHKテレビドラマ『幻のぶどう園』の主役など、数多くの作品に出演。82歳になった現在も「FUJI ROCK FESTIVAL ’25」でクロージングステージを飾るなどパワフルなパフォーマンスは健在。20264月より舞台『BACKBEAT』へ出演中。

『BACKBEAT』

作:イアン・ソフトリー  スティーヴン・ジェフリーズ
翻訳・演出 : 石丸さち子
音楽監督: 森 大輔

出演:
戸塚祥太(A.B.C-Z) 加藤和樹
辰巳雄大(ふぉ~ゆ~) JUON(THE& ex FUZZY CONTROL) 上口耕平
愛加あゆ・林翔太
鍛治直人 東山光明 田川景一 安楽信顕
尾藤イサオ

【プレビュー公演】
2026年4月12日(日)13:00公演
水戸市民会館 グロービスホール
※公演終了

【愛知公演】
2026年4月17日(金)~19日(日)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
※公演終了

【大阪公演】
2026年4月25日(土)~26日(日)
SkyシアターMBS
※公演終了

【東京公演】
2026年5月3日(日祝)~17日(日)
EX THEATER ROPPONGI

【兵庫公演】
2026年5月21日(木)~24日(日)
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

版権コーディネート: シアターライツ
協力:ザ・ビートルズ・クラブ

企画:シーエイティプロデュース
製作:シーエイティプロデュース、テレビ朝日

公式サイト https://www.backbeat-stage.jp
公式X @BackbeatStage

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