アーティストとアントレプレナーの「共通項」と「違い」とは──YAU SALON 番外編『アート×スタートアップで加速するイノベーション』より【EDGE】

アーティストとアントレプレナーの「共通項」と「違い」とは──YAU SALON 番外編『アート×スタートアップで加速するイノベーション』より【EDGE】

2025年11月27日、有楽町「Tokyo Innovation Base」で開催されたトークイベント「アート×スタートアップで加速するイノベーション」。日本有数のビジネス街・丸の内で、大丸有エリアマネジメント協会LigareとYAU(有楽町アートアーバニズム)が共催した本イベントは、アートとビジネスが交わる最前線を探る試みだ。

登壇したのは、N-ARK 代表/UntroD Capital Japan エンビジョンマネージャー田崎有城氏、THE CREATIVE FUND, LLP 代表パートナー小池藍氏、株式会社Senjin Holdings 代表取締役/アーティスト集団「ALT」主宰の下山明彦氏の3名。モデレーターは、株式会社アーツ・アンド・ブランズ 代表取締役/ブランディング・ディレクターForbes JAPAN ビジネスデザイン・アドバイザー/株式会社ヘラルボニー 顧問 / アート・プロデューサー笠間健太郎氏だ。

アートとスタートアップの親和性、そして創造性はビジネスや組織にどのような変化をもたらすのか──。本稿ではその議論の様子をリポートする。

【EDGEについて】
ビジネスの最前線にいるプロフェッショナルでさえ、その輪郭を捉えきれていない──。EDGEでは、まだ言語化されていない「知」に光を当てる。既存のフレームワークでは説明しきれない思考、従来のビジネス文脈では見過ごされてきた視点。そうした「これから重要になる何か」の正体。

均質化する丸の内の危機感と「アート」の必然性

大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアは、35万人ものワーカーが集積し、長らく日本経済をけん引してきた。しかし、オフィス街として成熟した今、この街が「これからも選ばれる場所」であり続けるためには、新しい価値を生み出す“多様性の回路”が必要とされている。

リガーレ(大丸有エリアマネジメント協会)の中森氏は、その鍵をアートに見いだす。

作品としてのアートだけでなく、アーティストの活動や思考そのものを街に持ち込むことで、ビジネス一色だったこのエリアに、新しい流れと出会いを生み出したい」(中森氏)

YAU(有楽町アートアーバニズム)は、まさにその思想を具現化する取り組みである。

オフィスの空き区画をリノベーションし、アーティストの創作拠点を街の中に設ける。アーティストが街に根づき、日常的に活動することで、街に新しい人の流れが生まれ、個人の活動も活発化していく。

さらに、アーティストと企業が日常的に交わることで、企業の発想や価値観にも変化が生まれ、組織自体がよりクリエーティブに変化していく——。

中森氏は、こうした“創造の連鎖”が街全体にポジティブな変化をもたらすと語る。

アートは街や経済の仕組みをどう更新できるのか。その核心を探るべく、モデレーターの笠間健太郎氏が登壇し、アートとスタートアップの共創をめぐる議論が始まった。

※YAU(有楽町アートアーバニズム)
https://arturbanism.jp/

「真理を掘る者」と「社会を変える者」

まずは、アートとアントレプレナー、あるいはアートとビジネスの関係性を構造的に捉えるために、ディープテック領域に投資するベンチャーキャピタル(VC)に携わる田崎佑樹氏が提示した仮説を見てみよう。

田崎氏は、世界を動かす営みを「基礎(真理探究)」と「応用(社会実装)」の二層に分けて考える。

【「探求」と「実装」、世界を動かす2つの営み】

  • 基礎(真理探究)アート、サイエンス、アントレプレナーシップ
  • 応用(社会実装)デザイン、テクノロジー、ビジネス

基礎と応用は、田崎氏の言葉を借りれば「まったく違う生き物」だ。基礎の3つはいずれも真理探究の営みであり、「なぜ世界はこうあるのか」「どうすれば新しい原理を見いだせるのか」という問いに向かう。

一方、応用の3つは、社会実装のためにこの基礎を翻訳し、形にする役割を担う。この両者は向かう方向が異なり、直接つなげるのは容易ではない。

特にディープテックのスタートアップでは、基礎研究と社会実装をダイレクトに結びつけることが難しい。その間を媒介するのが、両者を横断して理解するチーム形成だと田崎氏は語る。

基礎と応用の間には翻訳者が必要です。 1人のスーパーマンではなく、CXO体制としてバランスよく構成されたチームが重要です」(田崎氏)

AI時代においては、この中間領域に立つ人材や組織の影響力をいかに伸ばせるかが、イノベーションの成否を左右する。

パネル※田崎有城氏は、海洋を新たな経済圏として気候変動に対応する海水農業技術や浮体建築技術の開発、海上都市構想「Dogen City」プロジェクトなど、海洋ビジネスイノベーションを推進する企業N-ARKで代表を務めている。
https://www.n-ark.jp/

アートは「問い」を投げ、ビジネスは「答え」を出す

ここで注目したいのが、アートとアントレプレナーシップの関係だ。一見するとまったく異なる営みのように見えるが、どちらも「真理を探求する」という意味では、同じ地平に立っている。

VCとしてスタートアップに関わりながら、アートコレクター、そしてYouTube番組『Meet Your Art』のナビゲーターとして多くのアーティストと対話してきた小池藍氏は、両者の共通点を次のように語る。

自分の好きなもの、課題意識、世の中の見え方、訴えたいことが強烈にあって、それを作品で表現するのがアーティスト、ビジネスで表現するのがアントレプレナーです」(小池氏)

アーティストと起業家の違いは、表現の構造にある。アートは1人で完結できるため、「とがったまま思いを貫く」ことができる。 一方、事業はチームで動くため、創業者の思いは一定程度社会化されるが、その分インパクトは大きく、「社会を動かす表現」となる。

こうした小池氏の整理に対して、アーティストであり起業家でもある下山氏(Senjin Holdings代表)も大きくうなずきながら、自身の実感を重ねる。

アーティストとしては、1番感じたいことを感じたい。だからある意味で、アウトプットをぶん投げでもいい。『なぜそれを?』と聞かれても、『わからない』で済むのです

でもアントレプレナーは違う。社会や資本主義との接続、仲間の人生を巻き込んだ責任があって、その中で何を証明するかが問われる」(下山氏)

アートは「問いを投げる」営みであり、ビジネスは「問いに応答する」営みである。同じ真理探究でも、その責任構造がまったく異なるというわけだ。

一方、ディープテック分野のスタートアップに深く関わる 田崎氏は、こうした探究の深さに注目する。

「ディープテックの創業者は、下積み10年がミニマム。 10年研究して、20年で事業化。世界を変える新しい産業をつくるというのは、そういうものです。」(田崎氏)

小池氏もこれに呼応する。

「そうじゃないと耐えられないと思う。お金を投じて世界に出ていくには、基礎(真理探究)がなければ持たない。だからこそ、そこに向き合って、向き合って、時間をかけるからこそ応用(社会実装)で爆発できるのだと思うのです」(小池氏)

さらに下山氏は、アートの時間軸の長さに触れる。

「どれだけ深い谷に潜るか。 今はポジティブにアートが発見されやすい時代だけど、だからこそ、50年かけて壮大な実験をして、300年後に見つかるような作品があったら面白いですよね」(下山氏)

つまり、アートもアントレプレナーシップも、根底にある「基礎=真理探究」の構造は同じである。しかし、違いが生まれるのはその深さと時間軸だ。 探究の深さこそが、最終的に社会実装の強度を決めるのだ。

【要点】

  • アートもアントレプレナーシップも、根底には「真理を掘る」行為がある
  • アートは「問い」を放ち続け、ビジネスはその問いに応答する
  • 探求の深さと時間軸の長さこそが、社会実装の強度を決定づける

    アートとデザインの境界線、創造が企業を変える

    笠間氏が次に提示したテーマは、「アートとデザインの境界」である。

    近年、「デザイン思考」や「デザイン経営」といった言葉が広まり、ビジネスの領域でも創造性が重視されるようになっている。しかしその一方で、アートとデザインが同列に語られたり、アーティストとクリエイターが同義のように扱われたりする場面も少なくない。

    そこで笠間氏は、田崎氏の提示した「基礎と応用」という構造を参照しながら、両者の関係をあらためて問い直す。

    アートとデザインは、見た目こそ近しく映るが、その本質はまったく異なる方向を向いているのではないか。では、その違いはどこにあるのか。

    小池藍氏は、自身の経験を踏まえ、両者の違いを明確に整理する。

    「私はアートとクリエーティブは、本人の意識も、やっていることも、向かっている場所もまったく違うものとして認識しています」(小池氏)

    小池氏によれば、アートとは「自分のための表現」であり、利益や他者のためではなく、純粋に自分がやりたいことをやりたい形でやる世界である。

     一方で、クリエーティブ(デザイン)は「他者のための表現」であり、社会や誰かの役に立つことを前提として成立する。

    小池藍様※小池藍氏はエイベックスのアート専門YouTubeチャンネル「MEET YOUR ART」ナビゲーターも務めている。
    https://www.youtube.com/@MEETYOURART

    それを受けて、下山氏は企業とアートが交わる現場の実例として完全栄養食ブランド「BASE FOOD」との共創プロジェクトを紹介した。

    下山氏によれば、センジンホールディングスとして手がける場合、たとえば「BASE FOOD」のプロジェクトでは、 いかにブランドの魅力を伝え、どんな導線で顧客と出会うか、といった、いわばビジネスとしてのロジックから支援を組み立てていく。

    対し、アーティストとして関わる際には、「健康とは何か」「主食をイノベーションするとはどういうことか」といった根源的な問いを立て、社員や関係者を巻き込みながら、企業そのものの存在意義を再解釈していく。

    それは、ビジネスの成果を直接求める行為ではなく、企業の無意識を掘り起こし、再言語化するプロセスである。下山氏はこうした取り組みを通じて、「企業や組織が、自分たちの活動をメタ的に面白がれるかどうか」が鍵だと語る。

    アートが介在することで、会社という共同体が自らの存在を新しい視点から見つめ直し、それによってユニークさと生命力を取り戻していく。それこそが、アートが組織にもたらす最大の変化なのだ。

    続いて、田崎氏は、アートとクリエーティブを二項対立で捉えること自体が、すでに時代遅れになりつつあると指摘する。

    実際に現場で活躍している人たちは、アートとクリエーティブの間を、高速で行き来していると思います」(田崎氏)

    アーティストが社会実装の言葉を理解し、起業家が内的探究の感性を持つ時代。両者の境界はもはや曖昧であり、むしろ基礎と応用の両方を翻訳できる中間人材こそが次の時代の創造性をリードしていくのだ。

    【要点】

    • アートは「自分のための研究」、デザインは「他者のための実装」
    • アートが企業の無意識を揺さぶり、デザインがそれを社会に翻訳する
    • 現場ではアートとクリエーティブが高速で行き来され、境界は実質的に曖昧になりつつある

    要はアートとビジネスをつなぐ、中間人材の可能性

    議論の最後に取り上げられたテーマは、「アートとスタートアップ」だった。これまでアートとビジネスの親和性について語られてきたが、実際にそれをどう組み合わせるかとなると、多くの人にとってはまだイメージの難しい領域である。

    たとえば、アートを事業や組織にどのように取り入れるのか。アーティストを雇うのか、あるいはパートナーとして共創するのか。その具体的な形は、今まさに模索の段階にある。

    田崎氏は、鍵となるのは「中間に立つ存在」だと語る。

    「たとえば、基礎(真理探究)技術を事業化する際に、 CEOがサイエンティストやエンジニアの場合、ビジネスにまったく興味を示さないケースも少なくありません。その人とコミュニケーションを取りながら事業を組み立てられる人材を探すのは本当に難しいのです」(田崎氏)

    重要なのは、スキルや経歴よりもカルチャーフィットだという。

    「能力的にすごいから採用する」という発想ではうまくいかない。 むしろ、“好奇心の高さこそが中間に立つための基盤になると田崎氏は強調する。

    「最近は、アート(=基礎側)に興味を持ちながら、ビジネスの実装ができる人も増えています。 時代的には、両者が溶け合いはじめていると感じます」(田崎氏)

    小池氏も、数多くのスタートアップを見てきた経験からこう語る。アントレプレナーにアーティスティックな側面が強いほど、事業は大きく育つ傾向があるという。

    創業者がとがっているほど、その人にしか見えていない世界がある。 いっていることが変わるように見えても、そこには芯が通っている。結局、残っていくのはその感覚にフィットする人たちなのです」(小池氏)

    一方、下山氏は、スタートアップや企業がアートを経営・組織活動に導入する際の3つの効果を挙げた。

    スタートアップや企業がアートを経営・組織活動に導入する3つの効能】

    1. 視覚的・感覚的刺激によるリラックスやポジティブな効果

    2. クリエーティブな感性が触発される効果

    3. 企業のパーパス(存在意義)への自己反省と再強化

    「この3つのうちでも、私は3番目の“パーパスの再強化”が最もインパクトがあると思っています。 共同体としての権威や文化をどう高めるかというのは、実は再現性のある営みなのです。ただ、それを実現するためには、アーティストと企業が適切な関係性を築くことが不可欠です」(下山氏)

    アートを単なる装飾やCSRではなく、企業文化そのものを揺さぶる“構造的な問い”として扱うこと。その営みは、組織が自らの存在理由を再び手繰り寄せ、未来をつくるための出発点となる。アートとスタートアップの接続は、まだ始まったばかりだ。しかし、創造の回路はすでに静かに開きつつある。

    下山明彦様※下山明彦氏は、東京大学在学中に暗号資産メディア「CoinOtaku」を起業して約6億円で売却し、その後2019年にSenjin Holdingsを創業、さらに東京藝術大学修士課程でアートを学んだ異色の経歴を持つ。

    そして、セッションの終盤。「今、何に夢中になっているか?」という問いが投げかけられた。そこに返ってきた答えは、三者三様でありながら、どれも探求という共通の熱を帯びていた。

    田崎氏は、気候変動に対応する「海上都市(N-ARK)」の実現に没頭していると語り、まさにディープテックの実践者としての顔をのぞかせた。小池氏は、円安や日本のプレゼンス低下を危惧し、「日本発で世界に普及する爆発力のあるもの」の再発掘に情熱を燃やす。

    一方で下山氏は、より人間の根源的な感覚に目を向ける。自身の入院経験をきっかけに、身体の持つ知覚や回復力への畏敬を抱き、そこから「強い共同体とは何か」を考えるようになったという。その延長線上で、彼は身体と創造性をつなぐ教育の場、「Senjin高校」の設立構想を語った。

    3人はそれぞれの場所で真理探究を続けている。その姿勢こそが、これからのビジネスパーソンに最も必要な、アート的資質なのかもしれない。

    【要点】

    • アートとスタートアップをつなぐ鍵は、中間に立つ人の存在である
    • スキルよりも、好奇心とカルチャーフィットが創造の連鎖を生む
    • アートは企業文化を揺さぶり、パーパスを再定義する装置となる

    参考:
    ART & BUSINESS AWARD 2025
    https://forbesjapan.com/feat/art-business-award2025/

    FUTURE VISION SUMMIT 2025
    https://www.fvs2025.com/

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