人間中心設計とは?スペシャリストに聞いたAtoZ──よくある落とし穴と、その回避方法

人間中心設計(HCD)の考え方をプロダクト開発に活かす。その重要性は、もはや多くの方が理解されていることと思います。しかし、いざ現場で実践しようとすると、思わぬ壁にぶつかることも少なくありません。ユーザーインタビューの件数をこなすこと自体が目的になってしまう。ペルソナやカスタマージャーニーマップをつくったものの、その先の開発に反映されない。組織に導入しようとしたら、「なぜ今までのやり方を変えなければならないのか」と抵抗を受ける──。
本記事では、こうした人間中心設計の「落とし穴」をどう回避し、実務で機能させるかを掘り下げていきます。ユーザー定義の粒度を変えるだけで体験が一変したヘルスケア企業の事例、アンケートの自由記述から「心の声」を抽出する価値分析法(KA法)とそのAIによる高速化、そして不確実性を嫌う日本の組織文化の中で小さな成功体験を積み上げていくアプローチまで。
「知っている」を「回せている」に変えるための実践知を、サムスン⽇本研究所での開発経験などを原点に、現在はワークショップデザインやAIを活用した分析ツール開発にまで領域を広げる人間中心設計専門家・上林昭様に伺いました。
Index
「自分がつくったものが、誰かの嫌な体験になっていないか」トナー開発で感じた葛藤
金澤
まずは、上林様が人間中心設計に関わるようになった背景からお聞かせください。
上林様
私はもともと、プリンター業界でレーザープリンターの開発に携わっていました。新卒で東芝グループの会社に入り、その後、サムスン日本研究所、日本HPなどで、プリンター関連の開発や企画、技術開発戦略、人材育成などに関わってきました。
なかでも、人間中心設計につながる原体験として大きかったのが、トナー開発の経験です。トナーは、レーザープリンターで使う粉状のインクのようなものですが、お客様にとっては汚れやすく、あまり喜ばれるものではありません。オフィスでトナー交換に当たると、「貧乏くじを引いた」と感じる方もいると思います。開発者として、自分がつくったものがお客様にとって嫌な体験につながっていることが、ずっと引っかかっていました。せっかく開発するのであれば、もっと喜ばれるものを提供したい。その思いは、以前からずっと持っていました。
10年ほど前、社内のデザイナーと一緒に仕事をする機会があり、自分がやってきたことを話していたところ、「上林さんがやっていることは、人間中心設計ですよね」と言われたことがありました。「これまでの実績をまとめて専門家の試験に提出したら、受かるのではないですか」とも言われました。そこで初めて人間中心設計についてきちんと調べてみたところ、「確かにそうかもしれない」と思いました。専門用語は知らなかったのですが、実績としては書ける。そう思って提出したところ、合格をいただきました。その後、用語やツールも含めて改めて学び始めました。
金澤
人間中心設計という言葉に出会う前から、すでにその考え方につながる実践をされていたのですね。
上林様
そうですね。当時は人間中心設計を軸にして動いていたわけではありません。ただ、開発の上流工程や企画、人材育成に関わる中で、どうすれば使う人にとってより良い体験になるのかを考える場面が少しずつ増えていきました。その後、3年ほど前に独立し、現在はグリサン代表として、ワークショップデザインを中心に仕事をしています。人間中心設計の考え方を、プロダクトやサービスだけでなく、人材育成や組織づくり、ワークショップの設計にも活かしている形です。

プロダクトだけではない。人間中心設計は、人間関係もデザインできる
金澤
人間中心設計というと、プロダクト開発やUI/UXの文脈で語られることが多い印象があります。ただ、上林様のお話を伺うと、もっと広い考え方のようにも感じます。改めて、人間中心設計をどのように捉えていますか。
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