FASの「財務コンサル(財務DDチーム)」の仕事内容・採用要件・キャリア

今回は財務コンサルへの転職を目指す方向けに、財務デューデリジェンス(財務DDもしくはFDD)チームの業務内容についてご紹介します。
財務DDはM&Aのプロセスの中でも対象会社の財務上のリスクや収益力を知るのに重要なパートですが、実際にどのような業務を行っているのか分からないという相談をいただくことも多いです。
この記事では、実際にBig4のFASで財務DDの経験がある方の生の声なども含め、実際の働き方や業務内容についてお伝えします。

【目次】

  1. 財務DDチームの業務内容
  2. 財務DDの主な分析内容
  3. 財務DDチームに転職後、最初に躓きやすいポイント
  4. 財務DDチームの採用要件
  5. 財務DDチームのワークライフバランス
  6. 財務DDチームにおける英語の使用頻度
  7. 財務DDチームからのキャリアパス

財務DDチームの業務内容

財務DDはSPA交渉の先立って行われるもので、企業価値評価や契約書交渉での主要な論点・リスクを事前に洗い出すというものです。買手の財務DDをする場合は、財務DDの業務は、
①:VDR(バーチャルデータルーム)における過年度の財務諸表(監査済)の入手、および管理会計資料を確認、
②:入手した資料を基礎に、各チームメンバーが担当する分析項目(PL・BS・運転資本・ネットデット・正常収益力・設備投資・キャッシュフロー計算書)に分けて、過年度の財務データの整理と分析を進める。
③Q&Aシートに質問事項を記載し
④:質問に対する回答が得られたら分析に反映、そして自分の担当する項目のプレゼンテーション資料を作成する
が業務の流れになります。

④の業務は財務DDの報告会(中間及び最終)に向けて進めていくことになります。中間報告会では、クライアントに対して財務DDでの検出事項をアドバイザーも含めて共有し、中間報告会でのクライアントのフィードバックやコメントをもとに財務DDレポートを最終報告会に向けて完成させていくのが大まかな流れになります。

財務DDの主な分析内容

正常収益力

正常収益力分析とは、売上高もしくはEBITDAに関して過去のイレギュラーな取引や営業外項目の影響を排除して企業の実質的・経常的な収益力を測定するために行うものです。
特に、M&Aにおける財務デューデリジェンスで最重要と言っても過言ではないほどにキーとなる分析項目であり、財務デューデリジェンスレポートのエグゼクティブサマリーに必ず記載される項目になります。
正常収益力を考慮した売上高およびEBITDAは、それぞれ正常化調整後売上高・正常化調整後EBITDAともよばれ、英語ではNormalized EBITDAもしくはAdjusted EBITDAと呼ぶことが多いと思います。

正常収益力分析は、非継続的な取引にかかる損益、会計処理の誤り等の調整を行い、正常化調整により会計処理の誤りや一時的・突発的な損益影響を排除した、企業のあるべき収益力が明らかになります。
正常収益力が重要な理由として、既に撤退を検討している事業の損益が過去の財務諸表に含まれていたりする場合は当該影響を排除して、財務分析およびバリュエーションをすすめないと全く意味のない数値が計算されてしまいますし、マルチプル法で企業の事業価値(EV)を計算する際に、正常化調整後EBITDAをベースにすることが実務ですので、M&Aにおいて価格交渉やバリュエーション実施においてポイントになります。

運転資本

財務デューデリジェンスでは、運転資本はエグゼクティブサマリーに必ず記載される重要項目の一つであり、特にキャッシュフローに影響する項目である事から、事業会社のみならず、プライベートエクイティファンドが重視することになります。

事業会社にとっても、DCF法でバリュエーションを行う際は、アンレバードフリーキャッシュフローが基礎になりますので、アンレバードフリーキャッシュフローの計算では税引き後営業利益に償却費を加算、運転資本の増減額と設備投資を減額して、その数値を計算します。計算要素を構成する運転資本の増減額は、将来の計画期間における運転資本水準で変わりうるので正確に事業計画期間の運転資本を見積もることがキーになります。

財務デューデリジェンスにおいては、監査済の財務諸表を基礎に計算した回転日数のみならず、正常化した回転日数の計算を行うことが重要になります。
運転資本項目のなかには、長期間滞留している売掛金や、販売不可能となっている棚卸資産、仕入先から支払猶予を受けている買掛金等が含まれていることがあり、これらの正常な営業循環取引にはならない項目を調整し実態を示す正常な運転資本の水準を算定することが、適切な企業価値評価に役立てます。

ネットデット

ネットデットは借入金や社債などの有利子負債から現預金を控除した数値です。
財務デューデリジェンスの過程で入手できる、過年度のBSを基礎にして現預金および有利子負債の差額をネットデットとして計算し、デットライクアイテムや潜在的なキャッシュアウト項目を加味して、調整後のネットデットの分析を行います。
デットライクアイテムは網羅的には把握することが重要で、退職給付債務や資産除去債務のみならず未払の給与や、法的係争の有無などQAシートも使いながら分析していくことが多くなります。

財務DDチームに転職後、最初に躓きやすいポイント

財務DDに転職した直後でよく悩む経験、つまずく経験について最初にお伝えすると、財務分析の手法というよりもパワーポイントでクライアントに対するプレゼンテーション資料を作成する際のコメントの記載方法やエグゼクティブサマリーの作成等、監査業務とは異なるコンサル的なスキルや素養が必要になることが多い印象です。
最初はフォーマットの統一やクライアントの要求水準を理解しながら業務を進めていくところに難しさを感じるようですが、Big4系のFASであれば組織も大きく研修体制やフォロー体制もしっかりしているという声も多いです。

財務DDチームの採用要件

Big4と呼ばれるデロイト、KPMG、EY、PwCのような大手会計事務所に主要なM&A案件のDDが集中する傾向にあります。基本的には会計の専門的な知識や高度な財務分析能力が必要になりますので、同チームでは公認会計士や日本の公認会計士試験合格者、もしくはUSCPAを保有する方が働いていることが殆どです。ただし、金融クライアント向けのコンサルティングを行っていた方や、金融機関の企画部門経験者なども対象になります。

(参考)Big4 FASにおける必要業務経験

1.公認会計士、公認会計士試験合格者(外国会計士資格等を含むが、科目合格者等は含まない)
2.以下のいずれかの業務経験
— 大手監査法人(Big4に限る)での金融業を対象とする監査業務経験(3年程度以上)
— コンサルティングファーム(監査法人を含む)における金融業を対象とする業務経験(2年程度以上)
— 金融機関の企画関連部門または経理部門における業務経験(M&Aに関連する業務経験や外国会計基準対応の経験があることが望ましい)

財務DDではM&Aのプロセスの中で早期に財務のリスクや収益力、財政状態(運転資本や有利子負債の状況)などを事前に把握するための財務DDレポート作成が主な業務になります。レポートは基本にパワーポイントで作成しますが、財務分析やQAシートはエクセルを使用して行います。

財務DDチームのワークライフバランス

忙しさは案件やチームによりますが、監査法人に比べて激務な傾向があります。これは監査法人における監査業務のようにスケジュールが毎期決まっているわけではなく、M&A案件のディールスケジュールやクライアントに応じて忙しさや成果物のレベル感も変わってくるためです。
事前に内情に詳しい知人や、業界に通じたエージェントなどから情報を取得しておくのがいいでしょう。
特にクロスボーダー案件の場合は、海外との電話会議や、英語でのやり取りも生じるためタイムラインのきつさもあいまってストレスフルになる可能性もあります。自身のストレス耐性や激務耐性もよく考えて転職先を決めることをお勧めします。

財務DDチームにおける英語の使用頻度

英語の使用頻度は外資系投資銀行のクロスボーダーM&Aチームに比して少ないですが、海外のPEファンドがクライアントの場合は、DDレポートは英語で作成し、報告会も英語で行うことが多いため、日本の会計士の方でも高い英語力を有していないと対応が難しいです。USCPAかつ海外大学を卒業している方は、比較的クロスボーダーのM&A案件の財務DD案件にアサインされる傾向があります。
もしクロスボーダー案件に関与することを希望する場合は英語力をアピールすることが重要になります。
また、QAシートも英語でのやりとりが多くなるので、話せるだけでなく、英語で読み書きが問題なくこなせるレベルにあれば業務上支障はないようです。

財務DDチームからのキャリアパス

財務DDチームに所属し、M&Aのディールに関する実務経験を積んだ方のキャリアとしては、事業会社やベンチャーの経営企画・CFO、少数ですがMBAを経由して投資銀行や投資ファンドに行く方もいらっしゃいます。
財務DDでは業務内容が定型化しやすいので社内でバリュエーションやM&Aアドバイザリーのチームへの異動を希望される方もいます。
基本的には会計士資格を取得していることが多いので、会計の専門性をベースにしつつ、自分の志向にあったキャリアを選択する方が多い印象です。

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>デューデリジェンスに関する記事

コンサルとPEファンドの「デューデリジェンス」の違い
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/duediligencethedifference

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このように財務DDチームは大手会計事務所系であれば、短期間で様々な案件の経験が積めますし、ハードスキルも財務分析能力も身に付きます。業務内容はハードでありつつも、財務DD業務は親和性が高く、監査法人からの転職もしやすいため、例えばM&Aに関する業務をしたい会計士の方にとっても、最初にチャレンジしやすい領域になるでしょう。

今回は財務コンサルへの転職を目指す方向けに、財務デューデリジェンス(財務DDもしくはFDD)チーム業務内容についてご紹介しました。
FASへの転職をご希望の方は、ぜひアクシスコンサルティングにご相談ください。


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