“ITストラテジスト”とは何か?【仕事内容から市場価値まで】

プログラマ(PG)やシステムエンジニア(SE)としてシステム開発業務に携わっていれば、要件定義や概要設計などの上流工程については、どのような作業を行うのかイメージはつくと思います。

しかし、ITストラテジストについては、そもそもシステム開発プロジェクトが始まる前の段階で業務が行われているため、作業のイメージすらつかない場合も多いようです。

今回の記事では、ITストラテジストとは普段どのような組織でどのような業務を行なっているのか、その歴史や市場価値なども合わせてご紹介します。

【目次】

  1. ITストラテジストが生まれた背景、歴史
  2. ITストラテジストの仕事内容
  3. ITストラテジストの市場価値
  4. プロジェクトマネージャー(PM)やITアーキテクトとの違い
  5. ITストラテジストに求められるスキルや資格
  6. ITストラテジストの求人例

ITストラテジストが生まれた背景、歴史

実は、IPAが提示する「ITスキル標準(ITSS)」の中に、「ITストラテジスト」という専門分野はありません。

ITスキル標準におけるキャリアフレームワーク上の

・マーケティング
・セールス
・コンサルタント

の職種に有効なスキルを持つ人材として、情報処理技術者試験のITストラテジスト資格保持者を想定しているだけで、明確な「ITストラテジスト」という職種の定義はないのです。

一般的には、下記のような立場の人々を「ITストラテジスト」と呼んでいます。

・Slerに所属しクライアントのIT戦略を検討することで、開発業務の受注につなげる人
・クラウドサービスや自社製品を販売する企業に所属し、クライアントのIT戦略を検討することで、自社のサービスや製品の販売につなげる人
・事業会社に所属し、自社のIT戦略を検討する人
・ITコンサルティングファームに所属し、クライアントのIT戦略を検討する人

様々な立場でITストラテジストが存在し得ることが、仕事内容をわかりにくくしている原因かもしれません。

もともと「ITストラテジスト」は、IPAが実施している情報処理技術者試験の中のひとつの区分ですが、2008年までは下記の2つの試験に別れていました。

・上級アドミニストレータ試験…経営戦略、会計、法務を担う、ユーザ側の立場としての試験
・システムアナリスト試験…企業や組織の経営戦略に基づいて情報戦略を立案する、システム開発側の立場としての試験

いずれも、情報処理技術者試験で当時最高レベルであったレベル5の試験でしたが、2009年にそれらが統合され、ITストラテジスト資格試験が誕生しました。そのような背景を持つため、ITストラテジスト試験は、ユーザ側・システム開発側、両方の視点が必要とされます。

ITストラテジストの業務でも業務面とIT技術面、両方の視点が必要であること、かつ事業会社・Sler・ITコンサルティングファームなど、様々な立場から業務を行うことがあるのも、試験の生い立ちに関係があると考えられます。

ITストラテジストの仕事内容

ITストラテジストの「ストラテジスト(Strategist)」は「戦略家」の意味です。事業会社における経営戦略に、ITを活用して実現する方法を考えます。

例えば、テレワークの推進により「紙資料を電子化したい」というニーズがあったとします。その場合、単に「スキャナを導入して紙をPDFにすれば電子化できる」という話ではなく、

・どの業務範囲を対象とするのか、対象となるユーザはどの部門か。
・どの資料を電子化の対象とするのか、何年分の資料の保管が必要なのか。
・既存の大量の紙資料の電子化は誰がどのように実施するのか。
・新規データは電子データ保存のみで良いのか。既存資料(電子化した紙資料など)との整合性は?
・電子化したデータをどのように検索するのか。電子化に当たって追加で付与すべき情報はあるのか。
・利用方法は閲覧だけで良いのか。電子印鑑などの導入は必要ないのか。
・電子化によって業務はどう変わるのか。ユーザ部門の人員配置など、組織変更の必要性はあるのか。

など、検討しなければいけない事項は多々あります。上記のように業務まで含めて分析・整理し、どのようなシステムを導入して、どのように業務を変えていくのかをデザインするのが、ITストラテジストの仕事です。

そして、どのようなシステムを作るのか考えるだけではなく、システム開発プロジェクトが動き出すまで面倒を見ます。

事業会社に所属するITストラテジストの場合は、自社の業務を対象に業務分析・IT戦略を検討します。どんなシステムを作るのか決定すれば、システム開発プロジェクトを立ち上げることになりますが、自社にシステム開発ができるだけの人員リソースがない場合は、外部の企業に開発を依頼します。

最近では、SaaSなどのクラウドサービスだけでシステム化を実現できる場合もあるかもしれませんが、すべてを完結できることはまだ少なく、何らかの開発業務は必要になる場合が多いです。

そのため、RFP(提案依頼書)を作成し、Slerより概算費用や概要スケジュールの提示を受け、開発業務をどの会社に依頼するのかを決めていくことになります。

経営層などステークホルダへの説明と予算の確保などを行い、システム開発を請け負ったSlerのPMに引き継ぎを行ってシステム開発プロジェクトがスタートすれば、業務完了です。

なお、事業会社の業務担当者や情報システム担当者では、業務分析・システム化検討・RFP作成を行うスキルがない、という場合もあります。

そのような場合には、分析・検討業務自体を外注し、

・Slerに所属するITストラテジストが検討を行っていくケース
・ITコンサルティングファームに所属するITストラテジストが検討を行なっていくケース

が考えられます。

SlerがITストラテジストとして検討を行なっていく場合には、その後のシステム開発業務を請け負うことを前提としていますので、RFPの作成は行わず、そのまま要件定義フェーズに突入することもあります。その場合は、自社(Sler)のPMに引き継ぎを行い、システム開発プロジェクトがスタートします。

ITコンサルティングファームのITストラテジストが検討を行う場合には、システム開発業務はさらに別の企業(Sler)が請け負います。クライアントである事業会社がRFPを作成するまでをサポートし、Slerがシステム開発を受注するのを見届けてコンサルティング業務を終了します。

どのような組織に所属している場合であっても、システム開発プロジェクトをスタートできる状態にするまでがITストラテジストの業務範囲です。

ITストラテジストの市場価値

それでは、ITストラテジストの市場価値は現在どのようになっているのでしょうか。

まず、給与や待遇については、IT業界の中でも総じて高めと言えるでしょう。平均でも、いわゆる開発エンジニアよりも年収で100万円程度高いのが相場です。

ただし、事業会社の情報システム部門やIT企画部門に所属している場合、高度な分析業務を行っていたとしても経理や人事などの間接部門と同列の扱いになってしまいます。IT系企業と比較すると給与・待遇はどうしても低くなるというのが実情ではないでしょうか。

片や、高待遇なのはITコンサルティングファームです。一口にコンサルタントと言っても、具体的なシステム全体構想を考えるコンサルタントや、データの活用に特化したコンサルタントなど様々な分野がありますが、いずれにせよ給与・待遇ともに相対的に高めになります。

Slerにおいては、組織体系にもよりますが、ほぼプロジェクトマネージャ(PM)レベルの待遇とされている場合が多いでしょう。そのため、一般的な開発エンジニアと比較し、こちらも給与・待遇は高めになります。

求人数についてはそれほど多くはないものの、ITストラテジストは高度なスキルを必要とする職種のため、時期を問わず一定の求人は存在します。さらに、業務分析に加えてプロジェクトマネジメントもできるなど、複合的なスキルを持っていると転職活動では有利に働くでしょう。

プロジェクトマネージャー(PM)やITアーキテクトとの違い

ITストラテジストの業務は、「経営戦略をITを利用して実現する方法を考えること」および「そのシステムを開発までこぎつけること」ですので、システム開発作業に携わることはありません。

超上流工程として、「経営戦略を元に何を作るのかを決める」のがITストラテジストの業務ですので、その他の職種との役割分担は比較的明確に分かれています。

PMやITアーキテクトなど、他の職種との関係性と比較すると、

・ITストラテジストが「何を」作るか決める。
・プロジェクトマネージャ(PM)がスケジュールを検討し、工程を管理する。
・ITアーキテクトがシステムを実現するための土台(アーキテクチャ)を考える。

というような関係性になっています。場合によっては、ITストラテジストがそのままプロジェクトマネージャ(PM)として開発業務を進めていくというケースもあり得ますが、それは単に兼務として幅広く業務を担っているだけであり、通常はプロジェクトマネジメントはITストラテジストの業務範囲ではありません。

ITストラテジストに求められるスキルや資格

所属が事業会社、ITコンサルティングファーム、Slerいずれの場合であっても、業務を行なっているユーザから要望を引き出すために高いコミュニケーション能力が必要になります。

また、事業会社に所属しているITストラテジストであれば、自社の業務や業界のことが分かっていれば良いのですが、ITコンサルティングファームやSlerに所属している場合は、分析対象の業界や業務内容が案件ごとに変わる可能性があります。

未経験の分野であっても、業務分析ができるまでの知識を仕入れる立ち上がりのスピードと柔軟さが求められるでしょう。

ITストラテジストの業務に関係する資格試験としては、もちろん情報処理技術者試験のITストラテジストがまず第一に挙げられます。

他にも、業務分析に関する知識体系であるBABOK(Business Analysis Body of Knowledge)に関連して、カナダの機関であるIIBAが実施する

・ECBA(Entry Certificate in Business Analysis)試験
・CCBA(Certification of Competency in Business Analysis)試験
・CBAP(Certified Business Analysis Professional)試験

があります。

こちらは、プロジェクトマネジメントにおけるPMBOK(Project Management Body of Knowledge)とPMP(Project Management Professional)試験の関係によく似ています。

各試験には受験の前提条件があり、

・ECBA
過去4年間に、最低21時間以上の専門能力開発教育を受けること。

・CCBA
過去7年間に3,750時間以上のビジネスアナリシス実務経験を積むこと。
過去4年間に、最低21時間の専門能力開発教育を受けること。
2通の推薦状があること。

・CBAP
過去10年間に7,500時間以上のビジネスアナリシス実務経験を積むこと。
過去4年間に、最低35時間の専門能力開発教育を受けること。
2通の推薦状があること。

上記が必要になります。

しかし、PMPほどの知名度はないことや受験の前提条件のハードルが高いことから、日本ではまだまだ保持者が少ない資格となっています。

ITストラテジストの求人例

日系グローバルメーカー/年収800万円~1,200万円

◇職務内容

●国内外の基幹システム・主要周辺システムの刷新プロジェクトの企画・推進
●AI・IoT等デジタルトランスフォーメーション戦略策定・推進
●弊社新規事業戦略Smart Work Innovationの土台となるインフラ・セキュリティ戦略策定・推進等

◇応募要件

事業会社やITコンサルティングファーム等で、以下いずれかの業務経験をお持ちの方
●IT組織マネジメント
●経営層へのIT提案
●社内システム戦略策定
●Microsoft Dynamics/SAP/Oracle EBSいずれかの導入経験
●基幹システム構築プロジェクトのマネジメント経験
●海外IT戦略策定

日系SIer/年収600万円~

◇職務内容

・エンタープライズ分析を行い、ビジネスケースを作成する
・ビジネス要求、ソリューション要求の策定/評価を経て、最適なソリューションを提案する
・ソリューション策定後、プロジェクトマネージャに内容を引き継ぎ、プロジェクトの中で当初の課題を解決するソリューションになっているかの監視を行う。
・経験により、プロジェクトマネージャを兼任出来る場合にはそのままプロジェクトマネジメントも行う

◇必須スキル

・業務要求のヒアリングからビジネス要件定義、システム要件定義の経験
・CMS導入プロジェクトのマネジメント経験
・PMBOK、BABOKの知識(PMP、プロジェクトマネージャ、CCBA、ITストラテジスト取得者は優遇)

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>エンジニアのキャリアに関する記事

AWSソリューションアーキテクト資格を取得したエンジニアのキャリアパス【転職事例含む】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/awscareerpath

デジタル専門の経営人材「CDO(Chief Digital/Data Officer)」の設置背景・役割(CIO/CTOとの違い)・年収・キャリアパスについて
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/cdobackground

ITストラテジスト資格は「役に立たない」は本当か?取得後の「実情」と「メリット・デメリット」
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/itstrategistexamination

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今回の記事では、ITストラテジストの仕事内容や市場価値についてご紹介しました。

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