PEファンドへのキャリアにおけるUSCPA(米国公認会計士)の有効性と転職のポイント

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PEファンドへの転職は狭き門であるなか、資格を取得して転職に役立てようと考える方も少なくありません。難関資格の一つであるUSCPA(米国公認会計士)もPEファンドへの転職に役立つ資格の一つです。

この記事では、USCPAがPEファンドに役立つポイントや転職における有効性、またUSCPAの取得の流れなどを、実際にPEファンドで活躍される方からお聞きした情報なども参考にご紹介します。

【目次】

  1. PEファンドでUSCPAが役立つ理由
  2. USCPAだけでPEファンドへ簡単に転職できるわけではない
  3. USCPAになるには?費用や取得までの流れ
  4. USCPA以外にもPEファンド転職に役立つスキルはある
  5. USCPAはPEファンド転職に役立つが固執する必要はない

PEファンドでUSCPAが役立つ理由

USCPAは米国における会計制度を理解し、税務や会計監査および財務面でのコンサルティングをおこなううえで役立ちます。米国企業で役立つのはもちろんですが、日本をはじめ世界各国でもグローバル企業を中心に米国会計基準が導入されているため、米国企業以外でもUSCPAが役立つシーンは少なからず存在します。

まずは、そんなUSCPAがPEファンドで役立つポイントについて見ていきましょう。

PEファンドの経営に役立つ

外資系ファンドの場合、外国籍のファンドを日本に輸入する形で運用される場合が少なからずあります。ファンドは構造上企業に近い側面もあり、投資した資金と投資先をバランスシート上で管理します。ファンド運用中は財務管理や税務対応などが必要になるため、実は会計士のサポートが役立ちます。

日本で外資系PEに転職する場合を念頭に置くと、外国籍ファンドの運営状況を理解し、日本で運用できるスキームを導入する上で、米国の税制や会計制度を理解しているUSCPA所有者は重要な役割を果たすことができます。

グローバル企業や米国企業への投資に役立つ

PEファンドは資産の多くを未公開企業に投資します。一口に外資系PEファンドといっても、日本企業へも投資を行っているファンドと、投資先は海外で日本の投資家へ積極的にアプローチしているファンドがあります。

前者の場合は、投資先が海外企業であるため、海外の会計制度を理解しておくことは非常に有効です。すべての国の会計制度を一人で理解するのは現実的ではないなか、世界一の経済力を有する米国の会計制度を理解しておくと評価されやすいでしょう。

ファンド募集の際には財務面や税制の面から、顧客に投資先の健全性をアピールできます。また、投資期間中の運用報告においても、投資先の財務状況を踏まえて質の高い説明が可能になります。

バリューアップの一環でクロスオーバーM&Aを行うときに役立つ

投資先が日本企業でも、バリューアップの一環でM&Aを実行するとなれば、海外企業とのM&Aを検討するシーンも少なくありません。

海外企業の中で米国企業や米国会計制度を導入している企業の資産価値算定、デューデリジェンスを正確におこなうためには、同国の会計制度を理解しておく必要があるでしょう。もちろん外資系PEであればグローバルでみた組織の中に専門性を持つ人材はいる可能性が高いものの、日本国内に人材がいたほうが、より柔軟で迅速な意思決定が実現します。

会計やファイナンス関連の英語力

英語力は外資系PEファンドにおいて高いレベルが要求されます。いざ入社すると、外資系出身者や英語に堪能な方でも、金融や会計独特の英語の使いまわしに苦労する場合すらあります。

USCPAの取得を通じて英語ベースで会計制度や財務を理解しておけば、転職時のアピールポイントとなるだけでなく、転職後にはスムーズに仕事に参画できるでしょう。

USCPAだけでPEファンドへ簡単に転職できるわけではない

USCPA資格は、確かにPEファンド転職に役立ちますが、PEファンドは全般的に難易度の高い転職先であるなか、USCPA資格があると内定がすぐとれる、というほど簡単なものではありません。ファンドやコンサル、M&AなどPEファンドのビジネスに直接役立つスキルや経験がない状態では、たとえUSCPAだけを持っていても未経験から転職を成功させるのは困難です。

投資ビジネスを理解するという意味ではPEに限らずファンドビジネスの経験があったほうが、直接的にPEファンド運営に貢献できます。また、コンサルであれば企業のバリューアップに向けた課題解決に役立つでしょう。バリューアップの過程やEXITの局面においてはM&Aを活用するケースが多いため、M&A関連の知見も有効です。

会計領域の知見は確かにファンド運営に役立つものの、以上のスキルや経験と比べると間接的に役立つ知識といえるため、より直接的な経験やスキルを持つ人と競合したときには、優位に立つのは容易ではありません。

PEファンドへの転職に向けて長期的に取り組んでいく意欲がある方は、一度M&Aコンサルや投資銀行、FAS、コンサルファームなどへの転職を経てからPEファンドを目指すのも一つの戦略といえます。

USCPAになるには?費用や取得までの流れ

USCPAになるためには、まず会計やビジネス領域の必要な単位を取得しなければなりません。そのうえで4つの科目を3年以内に受ける必要がありますが、試験自体は日本でも東京・大阪にて受験可能です。100~200万円程度の高額な費用がかかるため、あらかじめ資金を用意しておく必要があります。

USCPAの取得の流れ①受験資格の取得

USCPAはまず受験資格を取得する必要があります。USCPAの受験資格は州ごとに異なるのですが、米国の会計やビジネス領域の大学単位を取得しなければなりません。また、モンタナ州・アラスカ州など一部の州を除いて4年制の大学を卒業していることも受験資格の一つとなっています。

日本の4年制大学を卒業しても大学卒業の要件はみたすことはできますが、会計領域の課程の単位が不足しているケースが多く、ほとんどの場合は追加の単位取得の認定を受ける必要があります。TACのような資格予備校では、米国の大学との提携などを通じて不足する単位の取得を可能とする仕組みになっているので、まずは予備校などを通じて単位を充足するのが近道です。

USCPAの取得の流れ②試験内容

USCPAの試験は追加の手数料を支払うことで日本でも受験できます。2023年7月時点では東京と大阪の2つのテストセンターでのみ受験可能です。

受験科目は4つですが、1科目ずつ受けることができ、3年以内に4科目すべて合格すれば資格取得できます。また、科目ごとに不合格になっても、1カ月間隔をあければ再受験できるようになります。

各科目の概要は次の通りです。

FAR:Financial Accounting & Reporting(財務会計)

  • 企業や非営利法人、政府機関、その他における一般的な会計基準の知識
  • 各組織の業務において知識を活用するために必要な能力
  • 企業会計 約80%、政府と非営利組織会計士 約20%
  • 試験時間4.0時間、四択問題 66問/50%、Task-based Simulation問題 8問/50%

 

BEC:Business Environment & Concepts(企業経営環境・経営概念)

  • ビジネス界の商取引の背景や会計的意義についての知識
  • 知識を実務上で活用する能力
  • 管理会計・ファイナンス 約36%、コーポレートガバナンス 約22%、経済学 約22%、IT概論 約20%
  • 試験時間4.0時間、四択問題 62問/50%、Task-based Simulation問題 4問/35%、Written Communication問題 3問/15%

 

REG:Regulation(諸法規)

  • Federal Taxation, Professional Responsibilities(職業倫理と法的責任)、Business Lawの知識
  • 知識を業務において活用していくために必要な能力
  • 連邦税法 約85%、ビジネス法 約15%
  • 試験時間4.0時間
  • 四択問題 76問/50%、Task-based Simulation問題 8問/50%

 

AUD:Auditing & Attestation(監査および諸手続き)

  • 監査手続・GAAS(Generally Accepted Auditing Standards)・監査証明業務に関する知識
  • 監査に関する各種基準等の知識
  • 業務において活用していくために必要な能力
  • 監査と証明業務 約80%、会計士としての責任 約20%
  • 試験時間4.0時間、四択問題 72問/50%、Task-based Simulation問題 8問/50%

参考:USCPAの試験制度・受験資格・難易度|TAC

USCPAの費用目安

USCPAは取得までに100~200万円程度はかかると考えておいたほうがいいでしょう。特に学習時にどのような予備校や教材を選択するかによって費用は大きく変わります。

先ほどご紹介した通り、日本の4年制大学を出るだけでは取得単位が足りないため、資格取得に向けた学習に加えて不足する取得単位を補う必要があります。

  • 専門予備校の学費:30~80万円
  • 学歴評価の発行依頼:2~3万円
  • 受験費用
    出願料金、国際会場手数料、受験料金の合計:40万円
  • ライセンス費用:9~10万円

USCPAの学習時間や難易度

USCPAの学習時間の目安は、英語力や会計に対する知識の有無で大きく異なります。ただし、日本の公認会計士レベルの知識を持っていたとしても700~900時間の勉強時間が必要という声もあります。

  • 日本の公認会計士レベル:700~900時間
  • 簿記2級・TOEIC500点台程度の方:1,000~1,200時間
  • 会計知識なし、英語力も高くない方:1,200~1,500時間

なおUSCPAの合格率は40%程度と言われています。意外に高い印象があるかもしれませんが、ほとんどの人が試験に向けて長い時間をかけて徹底的に勉強した結果であるため、やはり難関資格であることは間違いないでしょう。

USCPA以外にもPEファンド転職に役立つスキルはある

USCPAは日本人が受けるには非常に難易度が高い一方で、PEファンドに転職するうえで必須の資格というわけではありません。特に会計領域の大学単位が大きく不足している方は、そもそも受験資格を獲得するまでが困難です。

PEファンドへの転職を実現するためには、ほかの資格取得やスキルの獲得を優先したほうが近道となる場合もあります。

PE投資に役立つ経験やスキルが最も有効

PEファンドは人数が少ない組織であることが多いため、経験の少ない人材を、時間をかけて育成する余裕はあまりないのが実情のようです。そのため、資格よりも実務経験を最も重視すると言えます。具体的には次のような業種の経験が転職には役立つという声が多いです。

  • コンサル経験:事業再生や企業の資産価値向上につながるプロジェクト経験があるとさらに強い。特にFASや戦略コンサルは強い
  • M&A関連ビジネス:バリューアップの過程やEXITで知見が役立つ
  • PE以外のファンドビジネス:ファンドの実務や制度、ファンドの営業活動やレポーティングなどの経験が有効に
  • 投資銀行:株のファイナンス経験やM&A、IPOなどの領域はPEファンドと親和性あり

以上の領域での経験やスキルが充分にある場合は「資格があっても未経験」の方より優位に立てる可能性が充分にあります。

公認会計士資格

USCPAではなく日本の公認会計士資格でもPEファンドの仕事に役立つという意見が多いです。役立つ背景はUSCPAとおおむね同じで、ファンドの税制や財務管理に役立つほか、日本の会計制度をふまえた、投資先企業のバリューアップやコンサルティングに役立てることができるようです。

日本に進出している外資系PEファンドは、投資家を日本で集めるのみならず、日系企業に投資を行っているケースも少なくありません。そのようなPEファンドの場合は、日本の会計制度を理解している人材ニーズが発生します。

外資系企業から見れば日本は一支社に過ぎないため、実はグローバルな組織全体で日本に精通している方は多くないようです。

一方で本国が欧米の場合は、欧米の制度を理解している人材は本国に少なからず存在します。そのため、日本企業に投資するファンドの場合は、米国の会計制度を理解している方より、日本の制度を理解している方のほうがニーズが高い場合もあるようです。

中小企業診断士

PEファンドは未上場の企業に投資をするファンドなので、基本的に投資先は投資開始時点では中小企業となります。中小企業診断士は、文字通り中小企業のコンサルティングスキルを培う資格なので、投資先の課題解決や事業再生、バリューアップに役立つと言えます。

中小企業診断士は日本の中小企業のコンサルティングを想定した資格となっているため、この資格も日本企業へ投資を行う外資系PEファンドで役立つ資格です。

MBA(経営学修士)

外資系の金融業においてはMBA(Master of Business Administration)ホルダーの評価が高い傾向があります。MBAホルダーは英語力とグローバルレベルの交渉力、ビジネス遂行能力などが備わっていると見られて、即戦力として付加価値の高い人材であると評価される可能性が高いためです。

PEファンドの場合は国内外の企業の投資プロジェクトの推進のほか、投資先企業の経営層に入り込んでバリューアップを目指す場合にも、組織のトップとしてスムーズにマネジメントができると期待されます。大学院のMBAの課程ではファイナンスの基礎も学ぶため、投資先企業の財務戦略やM&Aにおいても付加価値を発揮できます。

このようにPEファンドビジネスにかかわる様々な領域の専門性や、国内外での交渉力、案件推進力が備わっているとの見方を背景に、MBAホルダーを高く評価する場合が多いようです。

卓越した英語力

外資系企業では英語力は欠かせません。アソシエイトぐらいまでのジュニアクラスであれば英語力がそこまで高くなくとも乗り切れますが、出世する上では必須でしょうか。

案件の推進や重要な意思決定、コンプライアンスなどさまざまな側面で本国と情報連携したり、時には本社のマネジメント層と交渉したりするシーンも発生します。また投資家が海外で、海外向けにロードショーや運用報告を行う場合もあります。シニアになるほどこのような展開が発生しやすいため、上に行けば行くほど高い英語力が要求されるようです。

そのため英語力があればプラスに働きますが、注意したいのは日系企業のように「TOEIC」「TOEFL」の点数だけで優位に立つのは困難なことです。外資系企業には外国人、留学経験者や帰国子女が多数いるので、テストの点を取ったくらいでは「不利に働かずに済む」という程度といえます。

TOEICであれば950点~などきわめて高得点でない限り優位に立つのは難しいでしょう。それよりも留学経験やすべての英語能力(書く、話す、聞く、読む)を使用する業務経験があるといったように、英語を「使う」経験を持っている方のほうが評価されるケースが多いようです。

たとえば、海外生活のほうが長い、外国での業務経験が3年以上あるなどといった経験があれば、外資系でも英語力を強みとできるでしょう。

USCPAはPEファンド転職に役立つが固執する必要はない

USCPAはPEファンドにおいてファンド運営や、外国企業のバリューアップ、M&Aを実行する場合などに知見が役立ちます。しかしながら、USCPAの取得は日本からでは非常に難関である割に「資格一つあれば内定が簡単に取れる」というほどPEファンド転職に役立つとは限りません。

USCPAの難易度もふまえると、PEファンドへの転職を目指すうえで必ずしも資格取得に固執する必要はなく、M&Aや投資銀行、コンサルなどで実務経験を積むのも一つの選択肢といえるでしょう。また、会計領域の知見を武器にするなら、日本語で試験を受けられる公認会計士を取得するのも一案です。

PEファンドに転職する上で、どのようなスキルや知識の習得、資格取得を目指すのが適切か、費用対効果を考えながら効率的にスキルアップを目指してください。

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会計士からM&Aコンサル(アドバイザリー)へのキャリアパス(採用ニーズ~業務内容の違い~転職年収事例~選考対策~入社後の注意点まで)
https://www.axc.ne.jp/media/change-jobs-knowhow/accountanttoconsultant

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PEファンド未経験からの転職(コンサル・FAS・投資銀行の方向け)で採用時に求められるスキルと対策
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/pefund_skillandpreparation

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今回の記事では、PEファンドへのキャリアにおけるUSCPAの有効性と転職のポイントについてお伝えしました。

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