WACC(加重平均資本コスト)計算上のポイントと注意点【具体例】

コンサルティングファームから投資銀行へ転職された方で、加重平均資本コスト(WACC)について躓かれる方が一定数います。そこで、今回は加重平均資本コスト(WACC)を計算する時の注意点についてお伝えします。
WACCはバリュエーションの実務で頻繁に使用されますが、実際に計算したことがないとどこに注意した方が良いか分からない方も多いのではないでしょうか。ここでは投資銀行等の実務で使用されるWACCの計算の注意点についてご紹介します。

【目次】

  1. WACCとは
  2. WACC計算時に使用する類似上場会社
  3. 資本構成:DEレシオ
  4. 資本コストと計算時の注意点
  5. 負債コスト:Cost of Debt, CoD
  6. 加重平均資本コスト:WACCをDCF法に当てはめる時の留意点

WACCとは

WACCとは加重平均資本コスト(Weighted average cost of capital)の事を言います。即ち、対象会社の事業価値 : enterprise valueを計算する際に、アンレバードフリーキャッシュフローに対する割引率として計算します。
実務上はディスカウンテッドキャッシュフロー法:Discounted cash flow、 DCFによるバリュエーションを行う際に別途計算されることが多くなります。
事業会社の経営企画でM&Aを担当される方でも、社内で簡易的にバリュエーション実施するために知っておいて損はない論点です。
投資銀行では、アナリスト等の若手のバンカーが、対象会社のバリュエーションを実施する際に計算することが多く、比較的簡単な論点と思われがちですが、実務上は案件に応じて考慮すべき点も多いのが特徴です。

WACC計算時に使用する類似上場会社

WACCの計算時においては、類似上場会社比較法において必要な、分析において使用する類似上場会社の選定を行います。
ここで行う類似上場会社の選定は、類似上場会社比較法のバリュエーションにおいて採用した類似上場会社のグループと整合している必要があります。
ただし、整合している必要があるだけで完璧に一致させる必要はないです。なお上場会社のWACCを計算する場合は上場会社である対象会社をベースにWACCを計算、および選定した類似上場会社に基づきWACCを両方計算しておく方がベターでしょう。
一方で非上場会社が対象会社である場合には、WACCの計算において、上記のようにシッカリと類似上場会社を選定してアンレバードβ(後ほど説明)と、DEレシオ(資本構成)の平均値と中央値を計算しておく必要があります。

資本構成:DEレシオ

もう一つWACC計算時に留意すべき点として、DEレシオを上記で選定した類似上場会社をもとに平均値、中央値を計算して最適資本構成と思わしきものを検討することです。
対象会社のDEレシオと、類似上場会社を元に計算されたDEレシオを比較して大きな乖離があるかどうかもチェックすることが重要です。
DEレシオはネットデットベースか、グロスデットベースで計算するかどうするか、の議論がありますが一般的にはグロスデットベースで計算することが適切です。
特に業界によっては、ネットキャッシュの企業が多いところもあるので、ネットキャッシュベースでDEレシオを計算すると、DEレシオがゼロとなり、有利子負債とエクイティ(株主資本)といった資本構成が適切に反映されない恐れがあります。
したがって、DEレシオを計算する際には総有利子負債と、エクイティの両方の数値を使って比率を出すことが肝要ですので注意しましょう。

資本コストと計算時の注意点

資本コストというと、モノによっては加重平均資本コストと混同して使用されている場合もあるので、ここでは株主資本コスト (Cost of Equity)を指します。
株主資本コストは、一言で言うと「株主が期待するリターン」となります。
実務では英語のイニシャルをとってCoEということもありますが、バリュエーションの実務ではCoEはCAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)に基づき以下の算式で計算されます。

株主資本コスト = リスクフリーレート(Risk free rate: Rfr) +β⋆マーケットリスクプレミアム(+アンシステマティックリスク)

ここでリスクフリーレートは、無リスクの債券の利回り、例えば日本国内の企業を対象にした場合は、日本国債の利回り、もしくはケースによっては米国債の利回りだと思ってもらえれば良いです。
βというのは、ざっくり言えば市場全体の株価と個別株の間のボラティリティを示す数値です。これは1より大きければ市場全体の株価より大きく変動するということであり、大きい数値であればあるほどリスクが高い株式ということになります。
この数値は、Capital IQもしくはBloombergのデータベースを使用すれば取得することができます。
実務ではエクセルのモデルに一定の数式を組んで、2年週次もしくは5年月次でβの数値を入手することになるので、式を間違わないようにする必要があります
なお、βを取得する時はIndexを何にするのかが重要かつ注意点となります。

例えば米国企業をバリュエーションする際にβを取得するのにTOPIXをインデックスに選んでいても何の意味もなく、そのような時はS&P500 等のドル建てのインデックスを用いてβを取得することが適切です。日本企業のバリュエーションであればWACC計算時に採用する類似会社に日本企業を選んでいた場合に、βをTOPIXベースにすることが重要です。

なお、βはデータベースから取得したものをそのまま採用することはせず、財務レバレッジの影響を排除(Unlever:アンレバーという)するのを忘れないようにしましょう。
アンレバードすることにより、株式の財務リスクを排除し、ビジネスリスクを反映したβが計算される、ということになります。
マーケットリスクプレミアムは市場の期待利回りからリスクフリーレートを差し引いた数値で、概ね6%くらいの水準である。例えばKPMGのバリュエーションチームのレポートは1年に数回アップデートされますが、参考になります。
日本国内の案件では、イボットソンアソシエイツが出している、エクイティリスクプレミアムの資料を参照するようにしましょう

● 次にアンシステマティックリスクについてです。難しそうな名前ですが、一言で言えば、個別株に起因するリスクです。(言い換えれば分散投資で軽減できるリスク)

理論的にはβの計算で既に、個別の企業のリスクは織り込まれているはずではありますが、実務では(特に会計士が行う減損テスト等)Specific Risk Premiumという数値を上乗せすることも多くなっています。参考にSpecific Risk Premiumに区分されるもののうちサイズリスクプレミアムがある。これは時価総額が小さい企業ほど多くのプレミアムを積むことになり、Duff & Phelpsなどが、データベースを公開していることが多いです。

ただしコーポレートファイナンスの実務上は、個別にSpecific Risk Premiumを織り込むのは難しく実務上はメインではありません。特に投資銀行が作成する資料では、すべての数値がクライアントに対して説明可能でなければならず、上記のリスクプレミアムは具体的に説明可能でなければ織り込まない方がベターな点も注意が必要です。

●新興国のバリュエーションにおける注意点

カントリーリスクプレミアムを考慮することがある点に注意しましょう。
特にブラジルやカンボジアといったようなemerging marketにおけるM&A・減損テストで考慮されることが多く、カントリーリスクの数値自体は、株主資本コスト・負債コストの双方に織り込むことになります。

※ニューヨーク大学Stern (NYU Stern: Financeの名門校である)のダモダラン教授のサイトにあるデータベースをダウンロードすることで入手できます。

負債コスト:Cost of Debt, CoD

負債コストは、債権者目線での期待収益率、具体的には借入金の利息等をイメージしてもらえれば良いでしょう。多くの場合は、対象会社の負債コスト、上場会社が対象のバリュエーションであれば、当該対象会社が属するセクターに関する社債の利回りを採用することが多い (Corporate Bond AAもしくはBBB rank等)です。
非上場会社をバリュエーションする際には、日本のデータベースであれば日本証券業協会が出している格付けマトリクスを使用して格付けBBBの公社債の10年物の利回りを採用することが多くなります

※公社債店頭売買参考統計値/格付マトリクス表 | 日本証券業協会
market.jsda.or.jp

実務上は、負債コストは税引き後の数値が採用されるので、COD*(1-tax rate)の算式で計算されます。なぜ税引き後の数値を採用するかというと、これは「負債の節税効果」を反映するためですので、この点も頭に入れておきましょう。

加重平均資本コスト:WACCをDCF法に当てはめる時の留意点

WACCはDCF法によるバリュエーションで使用される割引率である、と認識されている方は多いと思います。しかし、それを何となく覚えるのではなく、理由をはっきり理解して使う方が良いと思われます。
(実務でEquity DCFやDDM:配当割引モデルでは株主資本コストで割引計算をするので、安易にWACCを使用してはいけないという点があります)

WACCの計算方法はCoE⋆E/(D+E) + CoD*(1-Tax rate)*D/(D+E)
D:有利子負債
E:株主資本

WACCの計算では株主資本コストと税引後負債コストを資本構成で加重平均して計算しているので、会社の株主と債権者の両方に帰属するキャッシュフローに対する期待リターンを反映していると考えられます。

なお、DCF法によるバリュエーションにおいて計算基礎になっている数値はアンレバード・フリーキャッシュフローとなっています。
これは対象会社の資本構成と無差別なフリーキャッシュフローであり、したがってDCFの計算では分子のキャッシュフローに資本構成(Capital Structure) の影響は反映されていません。
このようにDCF法の計算では、分子のキャッシュフローは(対象会社が有利子負債を計上していても)ないものとして資本構成の影響を反映させない一方で、割引率には資本構成を反映した数値を採用することで、事業価値(Enterprise Value: EV)を計算しています。
EVとは即ち株主と債権者に帰属する価値(ここでは非事業用資産の価値はないものとする)であるから、EVとWACCはApple to Appleで対応することがわかります。

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>投資銀行やPEファンドへのキャリアに関する記事

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https://www.axc.ne.jp/media/careertips/fas_pe

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今回は加重平均資本コスト(WACC)を計算する時の注意点についてお伝えしました。
投資銀行やPEファンドへのキャリアをお考えの方は、ぜひアクシスコンサルティングにご相談ください。


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