「投資銀行」とは何か?わかりやすく解説【種類から存在意義まで】

投資銀行は特にハイクラス人材の中では就職・転職人気、知名度共に高い業種です。しかし、高い知名度にかかわらず投資銀行がどのような業種で、どのようなビジネスを行っているのかなど、投資銀行とは何かはっきりと理解されていないケースも少なくありません。

そこで今回の記事では、投資銀行という業界・業態について詳しく説明します。若手・第二新卒の方向けの基礎的な内容ではありますが、投資銀行を目指されている方はぜひご参考ください。

【目次】

  1. 投資銀行とは、「銀行業」ではなく「証券業」の一種
  2. 法人向けに有価証券の発行や取扱をサポートするのが投資銀行ビジネス
  3. 「企業が有価証券を自力で発行することは困難」など投資銀行の存在意義
  4. 「M&Aアドバイザリー」「IPO」「ECM」「DCM」
  5. 日本における投資銀行の種類とその違い

投資銀行とは、「銀行業」ではなく「証券業」の一種

投資銀行は「銀行」と冠しているだけあって、非金融の方はしばしば「銀行の一種」と勘違いされるケースも多いでしょうか。日本の場合は銀行系フィナンシャルグループ傘下に投資銀行業務を行う企業がぶら下がっていることも多いので、尚のこと誤解を生む原因となっています。

しかしながら、実際には日本では投資銀行は「証券業」の一種になります。投資銀行ビジネスを理解する上では銀行業・証券業の差をまず理解しておく必要がありますのでここで簡単に紹介しておきます。

銀行業の主要業務は預金を預かり、それを法人・個人に貸し付けることです。貸付先から利息を受け取り、その一部を利益とし、残りを預金に付与します。この時銀行は貸付けた法人・個人が借金を返済できないリスクを負っており、いわば銀行は金利を獲得するために「投資」している状況になります。

一方で、証券業は株・債券などの有価証券を取扱うビジネスです。野村證券などのリテール証券会社をイメージすると有価証券の「売買」を行うのみが証券会社ビジネスと思いがちです。しかし実際は、有価証券は自然に発生するわけではないので、新たな有価証券を発行するサポートも行います。後者の機能は投資銀行業務に係る重要な部分ですので、後ほど詳しく紹介します。

証券の場合は、あくまで投資しているのは「投資家」であって、証券会社はその売買を取り次ぐことで手数料収入を得ます。証券会社自身も有価証券を保有することがありますが、これはあくまで顧客である投資家に販売するために一時的に保有している建てつけで、小売業者が「在庫」を保有しているのと同じ意味合いです。

銀行業・証券業のベーシックな差異は以上で、投資銀行は後者の証券業、つまり有価証券を取り扱うビジネスとなります。ちなみに最後に余談ですが、証券業なのに「投資銀行」と呼ばれるようになった理由は、米国で同ビジネスを「investment banking」と呼ぶため。この直訳が日本での呼称として浸透してしまったのです。

法人向けに有価証券の発行や取扱をサポートするのが投資銀行ビジネス

続いては証券業の中での投資銀行ビジネスの特徴を、投資銀行の存在意義と共にご紹介します。

投資銀行とは証券業の中で、「有価証券の発行や、発行された有価証券の大規模な取り扱い」をサポートするビジネスですが、これを言い換えると、企業など法人の「資金調達や企業買収をサポートするビジネス」ということになります。投資銀行ビジネスについて、金融の仕組みと合わせてもう少し詳しく紹介していきます。

法人が、自分のビジネスで利益を上げる以外で資金調達を行う方法は大きく分けて二つあります。一つは「間接金融」と呼ばれ、銀行から借り入れる方法。先で紹介した通り、預金者と資金を借り入れる法人の間で「銀行」リスクをとって投資を行うので「間接金融」と呼ばれます。

もう一つは「直接金融」で、法人が有価証券を発行し、それを投資家に購入してもらうことで購入代金を得る方法です。債券の場合はいずれ返済(債券では償還といいます)しなければなりません。株式の場合は、返済は不要ですが、配当を定期的に支払う必要があります。(無配当の場合もありますが株式の細かい仕組みについてはここでは割愛します。)

そして、投資銀行は法人が有価証券を発行するためのサポートを行なうので、実質的に法人の直接金融による資金調達を手助けしていることになるのです。「手助け・サポート」と書きましたが大口の資金調達を行う場合には、投資銀行の介入が実質的には必須です。この背景は後段の投資銀行の存在意義のところで紹介します。

さて、一方で特に非金融業の人などからすると「どうして企業買収にも投資銀行は関わるのか」という疑問が浮かぶ人も多いでしょう。実は、企業買収に際してはまとまった有価証券の売買が発生します。なぜなら株式会社において「企業の買収」が意味するところは「買収相手の株式の大部分を買い占めること」を意味するからです。
会社法の詳細は割愛しますが、相手企業の50%以上の株式を保有すると子会社にすることができ、相手企業の経営権を得ます。そこから子会社を清算して完全に一つの組織として統合することも可能ですし、子会社を傘下に残して企業グループとして経営を継続することもできます。

従って、企業の買収、いわゆるM&Aには大量の株式の売買が発生することになります。全ての買収プロセスを全て企業が自力で行うことは、ごく小規模の企業などでない限り困難なので、売買の完遂をサポートするのが投資銀行ということになります。

最後に投資銀行ビジネスの「収益獲得方法」ですが、ここまで紹介した資金調達や買収のサポートは、それぞれ「手数料」を徴収します。ビジネスにより細かい差があるのですが、基本的に「資金調達金額」や「買収企業のサイズ」などに一定の比率を乗じて算出されます。貸し付けている間は定期的に利息が入ってくる銀行と異なり、一つの取引(=これをディールと言います)で一度しか手数料が入らないのが基本なので、投資銀行はディールの獲得にものすごく力を注ぎます。

以上のように、投資銀行ビジネスとは企業の資金調達や企業買収をサポートするビジネスということになります。ここまで読むだけでもある程度投資銀行の重要性は認識できるかと思いますが、次章では「投資銀行の存在意義」を説明します。

「企業が有価証券を自力で発行することは困難」など投資銀行の存在意義

まずは投資銀行の存在意義を箇条書きし、後段でそれぞれのポイントを説明していきます。

資金調達・買収検討企業の視点

●上場企業や有名企業が有価証券を自力で発行することは困難
●発行した有価証券を、投資家を集めて販売することは一般企業では実質不可能
●買収先の選定は不可能ではないが、全て自力で賄うのは負担が大きい
●有価証券の売買のフェーズは自力では実質不可能

まずは投資銀行のクライアントにあたる企業サイドの視点に立った投資銀行の存在意義。まず、間違えてはいけないのが、実は有価証券、特に株式の発行自体は全て企業が自力で行うことは制度上可能です。非上場の中小企業では実際に自前で全て完了させることで不要な手数料支払いを回避することもあるようです。

但し、上場企業の場合、また非上場でも一定程度以上の知名度の大企業では調達する資金が莫大になるため、自力での発行は現実的ではありません。特に上場企業の場合は取引所で売買されている株価が資金調達状況にダイレクトに反応しますので、専門知識なしに資金調達を行うのは危険すぎます。

投資銀行が介入することで、資金調達にかかる諸手続きの手間を削減するとともに適切な金額、タイミング、価格、市場などさまざまな要素を踏まえてベストな資金調達が実行可能になります。また、莫大な金額を調達する場合、有価証券を多くの投資家に販売する必要がありますが、幅広く有価証券を販売する(募集といいます)には証券業の免許が必要。従って、幅広い投資家から資金を集めるには証券業である投資銀行のサポートを受けなければ不可能です。

企業買収については、実は買収のサポート(アドバイザリーと呼ばれます)は有価証券の調達ほどは「絶対に投資銀行でなければならない」ということではありません。自前で買収先を探し、交渉する場合、コンサルなど投資銀行以外がサポートを行う場合もあります。
しかし、様々な企業の財務状況・ビジネス状況に精通している投資銀行は、アドバイザリー業務でも競争力を発揮します。また、こちらも有価証券のやり取りを行う部分は証券会社が関わる必要があります。またTOB(公開買付け。買収を実現するために、株主から株式を集めること)など多くの投資家から既存の有価証券を集める手法は、証券会社が介入しなければ法令上行うことができません。

投資家やマクロ経済の視点

●有価証券が幅広い投資家向けに発行されることで投資が可能になる
●直接金融が活発化することが経済活性化の土台となっている

投資銀行は金融市場・経済全体でみても重要な存在意義があります。そもそも世の中にいる投資家の多くは何かしらの有価証券に投資していますが、これらの有価証券はほぼ全て投資銀行のサポートによって発行されたもの。先に書いた通り、広く投資家を集めるような有価証券の発行には投資銀行の存在が必要ですので、投資銀行ビジネスがあることによって、有価証券が金融市場に供給され、投資家は投資先を選んで売買ができるようになっているのです。

また、企業自前での有価証券発行による資金調達の余地はきわめて限定されております。もし投資銀行がなければ、企業は資金調達のほぼ全てを銀行に頼るしかなくなるでしょう。銀行が貸し付けられる資金にも限度があるので、これでは企業は多額の資金調達が困難になります。資金調達が出来なければ企業はビジネスを拡大しづらくなり、経済が停滞してしまいます。現実にこのようなことが起きないのは、投資銀行が積極的に直接金融での資金調達をサポートすることで、経済活性化の土台となっているからです。

「M&Aアドバイザリー」「IPO」「ECM」「DCM」

ここまで投資銀行全体としてのビジネス内容や存在意義についてまとめましたが投資銀行の業務内容は大きく分けて4種類に分かれます。尚、日本の大手では概ね4種全てを行なっていますが、外資系や日系準大手の場合は、日本では一部ビジネスのみ行っている場合もあります。

M&Aアドバイザリー

M&Aとは日本語にすると企業合併・買収となります。正に先に紹介した企業の買収をサポートするビジネスです。買収先企業の選定や企業価値の試算、試算を元にした買収交渉、実際の株式売買の実行、そしてそれらに係るあらゆる法令諸規則に応じた手続き、書類作成など、M&Aのディール完遂までに必要な事柄を一貫して対応します。

特に有価証券の売買の実行、先に挙げたTOBなどは投資銀行(もしくは証券会社)でなければできないので、コンサルと比較した時の競争力となります。逆に契約上の買収が完了したのちに、実際に組織を統合させ、効率的にビジネスを遂行できるようにするPMIなどはコンサルでなければできませんので、コンサル・投資銀行で同じM&Aといっても業域が異ります。フェーズにより投資銀行、コンサル双方からアドバイザリーを受ける場合も珍しくなく、両者は一概に競合関係にあるとも限りません。

公開引受(IPO)

IPO=公開引受というのは金融業に精通しているか、あとは投資家でなければ耳慣れない言葉だと思いますが、端的に言うと「株式を証券取引所に上場すること」を指します。また投資銀行ではIPOを実現するためのアドバイザリーやサポートを行うビジネス自体をIPOもしくは公開引き受けと呼びます。株式を上場させて、証券取引所で売買できるようにするためには、証券取引所の規則を満たすよう企業を整備する、上場後に株価が安定するように、投資家が納得するビジネスモデルを構築すると行ったように様々な準備が必要です。

これらの上場準備を自前で完遂させるのは困難ですし、上場時の新規発行による資金調達は企業単独では事実上できません。こうした上場準備から発行した株の販売まで一貫してサポート・アドバイスを行うのも投資銀行の重要なビジネスです。

エクイティキャピタルマーケット(以下略してECM)

エクイティは株で、キャピタルマーケットとは資本市場のこと。資本市場とは投資銀行が活躍する、企業が資金調達を行う場を概念的に表したものです。ECMは企業の株式の増資や分割などのサポートを行うビジネス。上場企業が増資する場合、金額も莫大なものになりますので、不用意に行なうと、需給が崩れることで企業の株式が値崩れしてしまいます。

これを防ぐために事前に市場調査を行い、増資の行う際の株価や購入する投資家の募集、増資する株式の投資家への配分といった一連の機能を担うのがECMです。仕事の本分としては以上ですが、実際には「オリジネーション」と呼ばれる増資をはじめとした資本政策の提案や、株式が順調に売れるようにするための販促活動にあたる、「IR」と呼ばれる投資家訪問のサポートなども担当します。

デットキャピタルマーケット(DCM)

デットとは株式に対比して負債、ここでは債券のことを指します。その名の通り、債券発行のサポートを行うビジネスです。実は債券は特に機関投資家(銀行・保険会社・年金など法人の投資家)向け株式以上に莫大な金額で発行されます。1投資単位が1億円以上で、金額は2〜300億円規模が一般的。大規模な場合には1,000億円を超えるディールもあります。こちらも債券の発行提案から、IR、投資家集め、条件決定といった一連の業務に対応します。

このほかにも営業部隊であるRMや、審査部門、ドキュメンテーション部門などがありますが、投資銀行がビジネスとして直接的に手数料を獲得する源泉という意味では、概ねこの4機能に集約されます。

日本における投資銀行の種類とその違い

最後に日本の投資銀行の種類を実在する投資銀行企業(なぜか投資銀行業界では「ハウス」と呼びます)を例にあげながら紹介していきます。尚、以下の分類はオフィシャルに定められたものではなく「このように分類される傾向にある」という程度のものですので、あくまで参考としてご認識ください。

日系大手

日系の投資銀行はいずれもリテール証券会社と一体です。有価証券発行などはリテール部門が並存していたが方がより多くの投資家に販売できるため便利なのです。大手というと一般的には5大証券会社を指します。具体的には野村證券・大和証券という独立系、三菱UFJ、SMBC日興、みずほといった銀行フィナンシャルグループ系があります。いずれもリテール証券会社や銀行としてのイメージが強いかもしれませんが、投資銀行としても先に挙げたビジネスをフルラインナップで行なっています。

※参考:大和証券HP

日系準大手 

日系の準大手クラスの証券会社でも投資銀行ビジネスを一部行なっております。特に日系の強いDCMでは比較的準大手クラスの証券会社による投資銀行ビジネスが一定の地位を維持しておりますし、ECMもDCMほどの勢いはないものの、準大手クラスの証券会社が名を連ねます。(ただあまり「ハウス」と呼ぶことはありません)

外資系投資銀行

ゴールドマンサックスの給与水準の高さなどがしばしば話題になるため、投資銀行=外資系のイメージを持っている方もいるかもしれません。外資系投資銀行は、M&Aに力をいれているハウスが多いです。先の4ビジネスのうちM&Aだけはモルガン・スタンレーやゴールドマンサックスなどの外資系大手がリーグテーブルトップになることも珍しくありません。ECM、IPO、DCMもハウスによってはリーグテーブル中位以下に名を連ねますが、案件を絞り込んでいるため、ビジネス規模は日系大手に及ばない印象です。

ハウスの数は中規模以下も含めると意外に多いので、有名なハウスのみ例示すると、米系ではゴールドマンサックス、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカメリルリンチ、欧州系ではドイツ銀行、UBS、クレディスイス、HSBCといったハウスがあります。それぞれビジネスの強みが異なり、日本市場ではフルラインナップで投資銀行ビジネスを行なっていないハウスも多いです。

(参考)M&Aアドバイザリー

M&Aアドバイザリーをいわゆる証券会社以外が受け持つことがしばしばあります。デロイトトーマツやPwCといったコンサルティング企業、ブティック系などと呼ばれるM&A専業のアドバイザリー企業、GCAや日本M&Aセンター、ストライクといった企業のことを指します。

投資銀行に引けを取らない高待遇の企業も多く、M&Aを希望している場合には魅力的な企業といえます。

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>投資銀行へのキャリアに関する記事

コンサルファームから投資銀行(IBD)への転職後、活躍できるコンサル・できないコンサルの違い
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/postconsulinvestmentbank

投資銀行における部門毎の違い【業務内容~スキル~働き方まで】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/investmentbankdepartmentdi

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今回は投資銀行についてビジネスや存在意義、実際のハウスなどを簡単に紹介しました。

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