アーンスト・アンド・ヤング(EY)の日本におけるメンバーファーム。EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社。
今回はサプライチェーンユニットを率いるパートナー羽柴崇典様にアクシスコンサルティングの伊藤文隆と梅本昇平がインタビューしました。
文中の情報及びデータ等は2015年11月現在のものです。
組織の垣根を低く、そこからクロスセルのコラボレーションによる付加価値を生みだす
梅本
まずは羽柴様のご経歴についてお伺いさせてください。
羽柴様
私は他のコンサルの方と違って事業会社の経験が長いのです。事業会社に新卒で入社して管理職まで経験した後に三十代半ばでコンサルティングファームに転職をしました。
梅本
初めにお勤めになったのはどのような会社ですか?
羽柴様
財閥系の化学メーカーです。本社で原材料の調達管理を担当していました。その後にIBM、コンサルティングファームのスタートアップを経て、EYアドバイザリーに参画しました。
梅本
EYアドバイザリーへの変化は大きなものでしたか?
羽柴様
実際には溶け込むのは早かったと感じています。EYアドバイザリーは組織の垣根をつくらず、チーム、パートナー、メンバーが有機的に協働することを経営指針として掲げられていたことも理由です。
例えば他のファームはチーム毎のRevenueやProfitをKPIとしてパートナーを評価します。EYアドバイザリーにはそれがありません。チームごとに目標は設定しますが。パートナーは会社全体の売上についてコミットしているため、チームを超えた連携をし、どれだけファームに貢献したかということも重要なポイントにしています。
そのため複数の組織、パートナーが協力して提案もおこないますし、プロジェクトが始まれば、(チームを超えて)プロジェクト体制を構築します。過去にコンサルタントとしてコンサルティングファームの経験がある方には過ごしやすい場所だと思います。
これらの施策は全て競争優位のためです。組織に閉じてしまう動き方はチームメンバーの力量分の「足し算」でしかアウトプットが出ません。組織を壁を超えて、クライントに対して何が最適なサービスか、突き詰めて考え、ベストの体制を組むことによって、つまりは「掛け算」となり、それがEYアドバイザリーのValueとして提供できる、これがわたしたちEYアドバイザリーのカルチャーであり、強みだと思っています。
10年前に比べて課題の変数が増えている
伊藤
現在統括されているサプライチェーン領域についてお聞かせください。プロジェクトテーマはどのようなものが多いですか?
羽柴様
クライアントの課題が、需給計画、ロジスティクス、購買などの業務単位の課題から、より経営に直結し、より全社最適を求められるテーマに変わり、かつ、それがボーダレスになってきたのが、ここ10年での大きな変化です。いいかえると企業全体の経営課題の根底そのものを解決する必要があるのです。
2000年代初頭は、先ほどの需給計画、ロジスティクス、購買などの領域ごとに課題やテーマがあり、コンサルタントもそれぞれの領域を担当していました。それらの改革が一巡した現在は、複数の領域にまたがった課題が絡み合い、日本からASEAN、グローバルへと広がり、課題の変数も増加しています。特に、ASEAN、アジアが、マーケットとしてもロジスティクスとしても重要になっています。
例えばグローバル原価管理や在庫管理です。単に在庫を減らすことや、効率よく何かを運ぶということにとどまらず、経営目標として掲げる利益へどう繋げていくか。売上のトップラインを増加させるには在庫を減らすのではなく、逆に増やす必要がある場合もあります。その場合、もちろん、すぐに増やすことは簡単ではありません。需要予測、販売計画、生産計画、調達計画、ロジスティクス計画などのサプライチェーン全体の中でテーマ毎の課題を解決しながらも、全体最適としてのプランニングを実現する必要があると考えています。
地域統括方法も課題は山積みです。アジアでいうと、シンガポールに拠点を置いて、人事や経理の機能のほか、タイやインドネシアの工場まで統括することを推進することも多々ありますが、権限移譲の問題から日本の本社が承認する体制で、適時適切に判断できていないケースが少なくありません。
梅本
プロジェクト期間はどのくらいが多いのでしょうか?
羽柴様
前述した通り、サプライチェーンは複雑化しており、その改革は変数の多さに準じて期間は、変わります。例えば、サプライチェーンの最適化の構想立案なら3〜6ヶ月くらいです。さらにITの変革も含め、グローバルBPRまで踏み込む場合、1〜2年、あるいはさらに長期間となります。
日本でサプライチェーンをやっている人は、今がチャンス
伊藤
為替の変動によって調達ルートも頻繁に変わるものですか?
羽柴様
はい。ただし単純な為替だけの問題ではありません。調達単価だけをとらえるのではなく、調達してどこで製造し、どのように運搬しどこで在庫を持ち、販売するのか、国をまたいだ最適化が求められています。さらには、移転価格や関税といった税務上の課題も考慮する必要があります。FTAとも結びついています。
そのため税務も含めてグローバルでテーマを解決できる会社は限定されます。私たちEYは税理士法人、又はサービスラインを各国に持っていることも大きな強みとなります。
伊藤
やはりクライアントは大手企業が大半でしょうか?
羽柴様
必ずしもそうではありません。数兆円規模のクライントから売上100億程度のグローバルニッチトップカンパニーもクライアントです。
複雑化したサプライチェーンをどのように改革する必要があるのかはクライアントにより様々ですが、クライアントの規模にかかわらず共通していることは、グローバル化にスピーディーに対応する必要性に迫られているということです。
伊藤
従来サプライチェーンのテーマはコスト削減が多かったと思いますが、現在は成長戦略が多いのでしょうか?
羽柴様
割合としては、コスト削減20%、成長戦略や経営管理との連動が80%ぐらいでしょうか。現在大きなテーマはなんといってもASEANです。東南アジア諸国に進出しているクライアントのマネジメントをいかに改革していくかということになります。
同様に中国も引き続き大きな課題です。市場撤退における違約金、従業員と労働争議など複雑な事情が存在する一方、マーケットとしての中国のポテンシャルは依然として大きく、今後は中国国内の消費者向け拠点のロケーション、最適な供給網の再編成が重要になります。
これまでの日本企業は現地で独自のサプライチェーンを構築する傾向があるため、決算以前の工程の管理、コントロールが極めて難易度の高いものとなります。一方でこの課題を解決できなければ迅速な経営の意思決定が実現せず、確実にグローバル市場で競争力を失ってしまいます。
これらの問題を現地で解決できるコンサルタントの市場価値は高まりつつあり、日本おいて現在サプライチェーンを手がけているコンサルタントが、今後海外へ活躍の場を移されることになると考えていますのでキャリアを発展させるまたとない機会ではないでしょうか。
求めるのは、3つの軸をクリアした人
梅本
キャリアというお話が出ましたが、羽柴様はどのような人材を求めていますか?
羽柴様
3つの軸があります。当社のコンサルタントも、面接でお会いする候補者の方々にも完全に成熟された方ばかりではないということは理解しています。その為、三つの視点(全体・部分・長期)のうち、いずれかで評価し、不足する部分については入社後補えるように私を含め、チーム全員でサポートしてまいります。これらの判断基準で能力をお持ちの方をプロジェクトの中で育成していきます。
梅本
コンサルタント経験にはこだわらないということでしょうか?
羽柴様
はい。もちろん専門性だけを考えればコンサルタントとしての経験は優遇されますが、長期的な視点では育成していけばよいと考えています。
例えばITの導入経験をお持ちの方の場合、現在の製造業にはITは欠かせないので、ITの視点でサプライチェーンを理解いただくことで、コンサルタントとして育成可能と考えます。ほかには、クライアント側でサプライチェーン領域に関する業務を経験された方も、コンサルタントとしての基礎スキルを身に着けることで、活躍の範囲は広げられると考えています。
チームメンバーの年齢層は30代前半~40代前半が多いですが、特段年齢を問わずシニアコンサルタントもマネージャーも足りないというのが現状。市場からの要望は多岐にわたるため、積極的な採用活動を展開しています。
梅本
入社後はどのように担当が決まっていくのですか?
羽柴様
マネージャーになるまでは、複数のプロジェクトのアサインを経験し、自分に合った領域を選んでいただきます。自身の興味や、得意領域を研鑽いただくまたとない機会ととらえています。
また当社は積極的にアサイン意欲を提示すれば、幅広いジョブにアサインされることも可能であり、経験・知識を深められるのがEYアドバイザリーで働く他社にはない魅力と考えています。
コンサルほど面白い仕事はない
伊藤
大変お忙しいと思いますが、プライベートではどのようにお過ごしですか?
羽柴様
趣味はオペラを観ることです。劇場に行くのが好きで、週末を利用してヨーロッパまで観に行くこともあります。IBMに勤務していた15年くらい前に、研修の後ドイツに寄って、現地で舞台を見てから好きになりました。
オペラはとてもアナログな世界なので、今日の舞台は素晴らしかったというときもあれば、そうでもないな、というときも。最後は人間の力という意味で、コンサルティングファームのプロジェクトに通じるものがありますね。
他の趣味だとついつい仕事のことを考えてしまって。昔はスキーに行くことが多かったのですが、リフトに乗っていてもふと仕事のことを思い出していました。一方、オペラは不思議と切り離せるのです。
伊藤
最後に読者の方にメッセージをお願いします。
羽柴様
コンサルティングサービスは究極のサービス業です。そのためヒューマンスキルも極めて高い水準で求められる要求水準の高い職業です。ロジカルに考えることができ、一般的に頭がいいと言われるだけではまだまだ半人前で、最終的には人間力が非常に重要になります。しかしそこにやりがいがあると考えています。クライアントの経営層と直接コミュニケーションが取れるため、結果がよりダイレクトに跳ね返ります。
プロジェクト単位で仕事が進むこともこの職業の魅力です。私が事業会社から移って新鮮だったのは、プロジェクトが終わればしがらみがなくなり、またゼロからスタートできることでした。
最も楽しんだ時期はマネージャーのときだったかもしれません。当時は全て自分でコントロールし、詳細まで把握していましたね。マネージャーからシニアマネージャーになった瞬間も達成感を味わいました。それ以降はより経営に近いポジションで組織を動かす役割が増えます。もしマネージャーやシニアマネージャーで転身したとしても、それはそれで十分に良い思い出とプラスの経験であったと思えたと考えます。
生まれ変わってもまたコンサルタントをやりたいと思います。これほど面白い仕事、他にありませんから。