ITストラテジスト資格は「役に立たない」は本当か?取得後の「実情」と「メリット・デメリット」

情報処理技術者試験の中でも、「何となくすごい」と思われているものの、具体的にどんな内容の試験なのか、どんな業務に役に立つのかあまり認知されていないため、取得するべきかよくご相談いただく資格が「ITストラテジスト」です。

そこで今回は、ITストラテジスト資格がSlerではどう評価され、実際のところは役に立つのか、その実情についてご紹介します。

【目次】

  1. ITストラテジストが生まれた背景、歴史
  2. ITストラテジスト資格と関連する業務・職種
  3. SIerにおけるITストラテジスト資格の実情
  4. ITストラテジスト資格を取得するメリット・デメリット
  5. ITストラテジストを取得すべき人、そうでない人
  6. ITストラテジストの求人例

ITストラテジストが生まれた背景、歴史

ITストラテジスト資格は、情報処理技術者試験の中でもレベル4の高度試験に分類されており、下記の種類が存在します。

・ITストラテジスト試験
・システムアーキテクト試験
・プロジェクトマネージャ試験
・ネットワークスペシャリスト試験
・データベーススペシャリスト試験
・エンベデッドシステムスペシャリスト試験
・ITサービスマネージャ試験
・システム監査技術者試験
・情報処理安全確保支援士試験

しかし、同じレベル4の情報処理技術者試験の中でも

・ITストラテジスト試験
・プロジェクトマネージャ試験
・システム監査技術者試験

については、他の試験と比較して難易度が高いというイメージがエンジニアの中にあるようです。

元々、上記3つの試験は、今は情報処理技術者試験ではなくなったレベル5の区分に属していました(ITストラテジストは上級アドミニストレータ試験という試験区分)。2008年には上記3つもレベル4に統一されましたが、昔の名残で少しレベルが上の試験として認識されているのです。

もちろん、上記3つの試験が他のレベル4の試験より難易度が高いということは公式にはありません。あくまでIT業界で働くエンジニアが感じているイメージといったものです。ただし、それらは個人個人が勝手に思っているイメージではなく、IT業界で皆が公に口にしないものの、ある程度の共通認識として持っているイメージでしょうか。

そのため、ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、システム監査技術者については、保有していると「すごい」と思われることが多い資格のようです。知名度という意味では、転職などで履歴書に書くのには良い資格かもしれません。

それでは、ITストラテジストはどのような人が取得することを想定されている資格なのでしょうか。

簡単に言えば「ITを利用したビジネスプロセスの改善を提案や推進できる人」です。現状のビジネスプロセス(As-Is)を分析し、ITを使ってあるべき姿(To-Be)にビジネスを作り替えることを提案します。システムのみならず、業務を含めた改善の提案を行うため、対象の業務についても詳しく把握しておく必要があります。

何か個別のプロジェクトを推進したり、システムを設計・開発したりするスキルではなく、「ビジネスの改善」に重点が置かれているという点が特徴です。

ITストラテジスト資格と関連する業務・職種

ITストラテジスト資格は、プロジェクトを推進するスキルを得るためのものでも、システムの構築に関わるスキルを得るための資格でもありません。具体的には、どのような業務と関連があり、相性が良い資格なのでしょうか。

事業会社の情報システム部門、IT企画部門

事業会社には様々な業種がありますが、製造や生産や、何らかのサービスを行うことが業務の中心です。どのような業種であってもITが使われているため、どのような企業でも何らかのシステムを自社で保有しています。

事業会社が自社システムの開発・保守を自前でできているケースは少なく、状況に応じてSlerなどに発注しています。

しかし、開発の前段階のシステム企画は、事業会社の情報システム部門やIT企画部門と呼ばれる部署が中心となって進められます。それは、ITストラテジストに求められる「ITを利用したビジネスプロセスの改善の提案・推進」という仕事内容と一致します。

今取り上げられることの多い、デジタルトランスフォーメーション(DX)によるビジネス改革もこれらの部門が旗振り役となることが多いですし、まさにITストラテジストが必要とされる場面と言えるでしょう。

ITコンサルタント

事業会社にビジネス改善を提言する、コンサルティング業でもITストラテジスト資格は有効です。

ITコンサルティングファームなどに所属し、クライアントである事業会社の業務分析を行い、ITを使った業務改善を提案したり、課題に対する解決案を提示するのは、まさにITストラテジストの業務分野です。

なお、情報システム部門やITコンサルタント以外でも、「どんなシステムを作るのが自社またはクライアントにとって有用なのか」を考え、提案する立場と考えるとITストラテジストが役に立つ職種や場面はイメージが沸くのではないでしょうか。

SIerにおけるITストラテジスト資格の実情

Slerにおいては、ITストラテジスト資格というのはどのように評価されているのでしょうか。

まず、ITストラテジスト資格に対しては、他の情報処理技術者試験同様、資格手当や報奨金の対象となっている企業が多い印象です。取得している、もしくは取得を目指していることで、業務に対する意欲は高いと認識されるでしょう。

ただ、Slerでの業務にITストラテジスト資格がどう役に立つかを考えると、少し微妙な話になってきます。

というのも、Slerはクライアントから開発作業を受注し、システムを構築するのが主な仕事です。当たり前の話ですが、受注した段階で「どんなシステムを作るのか」ということの大枠はもう決まっています。

もちろん、要件定義や要求分析は開発の上流工程で行われますが、どんな業務改善を行うために、どんなシステムを構築するかという方向性は、Slerが仕事を受ける段階で既に決まっているため、ITストラテジストの出る幕が中々ないのです。

Slerであっても、プレセールスエンジニアとしてクライアントにシステム提案を行うという場面は存在します。しかし、詳細な業務分析を行なった上で提案をしているわけではありませんし、クライアントである事業会社側も、自社の業務のことは自社の人間が一番よくわかっていると考えているため、あまりその提案を真に受けることはしません。あくまでシステム開発を発注する際に、自社の業務をどれだけ理解しているのかを測る材料として聞いているだけです。

SlerにおけるITストラテジスト資格は、その難易度や知名度から、取得を推奨されてはいるけれども、実際の業務で役に立つ場面は少ないというのが実情ではないでしょうか。役に立つ場面が少なければ評価もされませんので、取得する労力の割にコストパフォーマンスは良くないということは言えるかと思います。

システム開発作業を受注するSlerにおいては、プロジェクトマネージャ資格の方が得た知識を使う場面は圧倒的に多く、評価も高いということは知っておいた方が良いかもしれません。

ITストラテジスト資格を取得するメリット・デメリット

メリット

ITストラテジスト資格は、プロジェクトマネージャ資格と並んで高度情報処理技術者試験の中では人気の高い資格です。名刺に肩書きとして表記している人もよく見かけます。

まず、保有していると、ITに関する高い知識を持っている人として認識されます。先に述べたように、資格取得で得た知識を使う場面は限られるものの、エンジニアとして「箔がつく」ことは悪いことではありません。

また、ITストラテジスト資格の保有者は、日本ITストラテジスト協会(JISTA)に正会員として入会することができます。多少の年会費はかかりますが、「自社以外のエンジニアや知識者との交流ができたことは大きなメリットだった」という意見もあります。

デメリット

ITストラテジスト資格を保有していることで評価されることはあれど、評価が下がるようなことは決してありませんので、取得することのデメリットは特にないのが実情です。

ただ、取得の難易度に対してSlerの業務で活用できる場面があまり多くはありませんので、取得したはいいけれど日々の業務は何も変わらないということはあり得ます。合格するにはそれなりの勉強が必要となるため、かけた時間に対してのリターンが少ない(コストパフォーマンスが悪い)と感じる人も多いかもしれません。

また、プロジェクトマネージャ資格におけるPMBOK(Project Management Body of Knowledge)に対して、ITストラテジスト資格にもBABOK(Business Analysis Body Of Knowledge)というものが存在します。

しかし、せっかくビジネスアナリシスの知識体系が存在するにも関わらず、ITストラテジスト試験では、BABOKの知識がほとんど問われません。ITストラテジスト資格の勉強を行なっていく中で、BABOKの知識を得ていくような関係になっていれば良いのですが、特にBABOKの知識がなくともITストラテジストは取得できます。

そのため、ITストラテジスト資格を取得していても、BABOKの知識・スキルがあることの証明にはならないというのは資格として少し残念なところでしょうか。

ITストラテジストを取得すべき人、そうでない人

取得すべき人

システムを企画する業務に携わる人については、ITストラテジスト資格は取得して損はありません。特に事業会社の場合は、自社の業務分析を完全に外部の企業に任せることはありません。ある程度の分析は自社の情報システム部門やIT企画部門の人間が担うことになりますし、システム導入の方向性を決めていく役割を担うことになります。

もし業務分析を外部のコンサルタントに依頼するにしても、自社の業務部門との橋渡しとしてシステム部門の人間がアサインされるケースがほとんどです。その際、ITストラテジスト資格の保有者が間に入れば、コンサルタントともスムーズにコミュニケーションが取れます。

また、コンサルティングファームなどITコンサルタント業務に携わる人にも取得をお勧めできる資格です。受注側としてクライアントの業務分析作業を行なっていくことになりますので、まさにITストラテジストの業務範囲と一致します。

ただし、ITコンサルティングファームなどは外資系企業も多く、日本の情報処理技術者試験は保有していてもあまり評価されないという実態はあるようです。あくまで資格取得を通して得た知識を業務に生かして、仕事で評価されていくのが基本という点は認識しておいた方が良いでしょう。資格を取得するだけで評価が上がることは当然ですがありません。

取得すべきではない人

Slerにおいては、取得する労力に対して役に立つ場面が少ないことが想定されます。せっかく勉強して難易度の高い資格を取ったのだから、目に見えるリターンが欲しいと言う人にはお勧めできません。

ただし、プロジェクトマネージャ資格と同様の論文系試験であることから、プロジェクトマネージャ資格に合格した人がそのまま次にITストラテジスト資格に挑戦する、というケースは多いようです。資格を取得したことによるリターンを期待してITストラテジスト試験を受験するというよりも、単にスキルや知識を広げるため、という気持ちで取得するのが良いかもしれません。

ITストラテジストの求人例

日系グローバルメーカー/年収:~850万円

◇職務内容

●経営戦略に基づいたグローバルのIT戦略の企画、立案、推進
●グローバルITガバナンス(IT戦略、ITアーキテクト、IT投資管理など)の推進

◇応募要件

【必須となる資格・スキル・経験など】
●IT戦略における企画立案経験:3年以上
●ITガバナンスの知見
●英語(TOEIC 730点以上、もしくは同等レベル)

【あれば望ましい資格・スキル・経験など】
●ITガバナンスのフレームワークであるCOBITの知識
●IPAのITストラテジスト資格
●IPAのITアーキテクト資格
●システム導入経験(プロジェクトマネージャー)の経験:3年以上

外資系保険会社/年収600万円~950万円

◇職務内容

以下の領域について、実行計画の策定と計画の推進を担う。
①人・組織関連(人材像定義、キャリアパス定義、能力開発、組織再設計ソーシング 等)
② 業務・システムの最適化の推進(エンタープライズアーキテクチャ推進 等)
③ 投資の最適化(予算・マルチイヤープランの策定、コスト可視化、削減 等)

◇必須スキル

●伝えたいメッセージを判り易く文書で表現できる能力必須
●ユーザ部門と判り易くコミュニケーションできるためのコミュニケーション能力
●問題を整理するための論理的思考力
●ポジティブ思考であること
●全社や自部門(IT部門)に対して、常に積極的に貢献する姿勢を保てること
●自発的、積極的に学習し、課題を発見し、解決に向けたアプローチを自ら考えられること

※業種(企業規模):大手ユーザ企業、大手SIerでの実務(システム開発・構築)経験、金融業界歓迎、生保保険業界歓迎
※経験年数:5年以上
※英語力:できれば尚可(実務上、英会話能力は求められない)

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>エンジニアのキャリアに関する記事

AWSソリューションアーキテクト資格を取得したエンジニアのキャリアパス【転職事例含む】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/awscareerpath

“ITストラテジスト”とは何か?【仕事内容から市場価値まで】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/informationtechnologystrategist

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今回の記事では、ITストラテジスト資格の実情についてご紹介しました。

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