投資銀行におけるプロダクト部門とは【組織内の位置付けと主な役割】

一口に投資銀行といっても、その中には大まかに言っていくつかの部門に分けられます。今回は投資銀行における「プロダクト部門」の役割と特徴について紹介していきます。

【目次】

  1. 投資銀行の組織・各部門について
  2. 投資銀行におけるプロダクト部門の役割
  3. 主要プロダクトの特徴:M&A
  4. 主要プロダクトの特徴:エクイティキャピタルマーケット(ECM)、デットキャピタルマーケット(DCM)
  5. 主要プロダクトの特徴:公開引受(IPO)
  6. プロダクト部門で求められるスキル〜営業力とマネジメント能力の両立〜

投資銀行の組織・各部門について

まずは投資銀行の一般的な組織構造について簡単にご紹介します。一般企業における人事・経理などのスタッフ部門を別にすると、投資銀行では大きく分けてカバレッジ部門・プロダクト部門・バックオフィスの3つがあります。呼称や細かい組織構造はハウスによってさまざまですが、大抵の投資銀行にはこれらの役割を持つ部署が存在します。

このうちカバレッジ部門については、いわゆる「営業職」にあたります。主に事業法人や公共団体などのクライアントに対し日常的にコンタクトし、M&Aやファイナンスなど投資銀行が「ディール」として扱えるプロジェクトニーズを発掘していきます。

参考:投資銀行におけるカバレッジ部門とは?カバレッジの位置付けと主な役割
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/investmentbankcoverage

プロダクト部門のビジネスについてはこの後詳しく紹介しますが、カバレッジ部門が具体的なニーズを確認したのちに、個別プロダクトの提案や条件決定までのディールプロセスの進行を担当します。プロダクト部門を営業職と見ることはあまりありませんが、仕事の内容としては営業的な側面とプロジェクトマネジメント的な側面を併せ持った部門といえます。

バックオフィス部門は、投資銀行のディールを行うための書類作成やリーガルチェック、コンプライアンスチェック、ディールの審査などを行う機能を持っています。投資銀行ビジネスは金融商品取引法をはじめ様々法制度によって厳格に定められています。バックオフィス内の専門部署がディールのチェックや書類作成を行うことで、不備なく、円滑にビジネスが進められます。

投資銀行におけるプロダクト部門の役割

プロダクト部門の役割についてご紹介します。プロダクト部門がクライアントと接するのは、基本的にカバレッジの営業活動によって「具体的なニーズが明らかになった後」です。

日常的なコンタクトの中で、カバレッジ部門がクライアントとの情報交換をしながら、今後の財務戦略やM&A戦略について広範な提案・シミュレーションなどを行っています。やがてクライアントが株・債券などでのファイナンスやM&A、IPOなどいずれか投資銀行のディールにつながるニーズを持った後がプロダクト部門の出番です。

ディール内容やクライアントによって細かい進め方はさまざまですが、一般的なプロセスとしては、具体的なニーズが把握したのちは、カバレッジ部門のメンバーがニーズに合致するプロダクト部門の部署とコンタクトを取ります。

カバレッジ・プロダクト間で連携し準備を重ねたのち、今度は個別のプロダクトの提案をクライアントに実施します。たとえばM&Aの場合は、最初は社名を明かさずにニーズに合致する買収先企業のリストや、具体的な進め方、スケジュール、コストなどを提案します。

提案は一度で終わる場合も、複数回重ねられる場合もありますが、いずれにしても最終的にクライアントが合意した場合には、今度はディールを進めていくフェーズになります。

投資銀行の世界では一般的に、M&Aの場合はアドバイザリー、そのほかのプロダクトの場合は主幹事というものに指名されれば、クライアントとそのハウスがディールを進められる状態になったということになります。主幹事指名やアドバイザリー指名は大型案件の場合公式に発表されることもありますが、大抵は公式発表より前の段階で既に水面下で指名が行われていて、ディールが進んでいます。

これらに指名されたら具体的なディールプロセスをプロダクト部門が進めていきます。

細かいディールプロセスはプロダクトにより全く異なるので、後ほどの個別プロダクトの説明のところでも補足しますが、基本的にディールが始まったのちはプロダクト部門が主体的にクライアントとコンタクトを取ります。

社内のバックオフィス各部署とも連携して、法制度上の対応やコンプライアンス、文書作成などのスケジュールをマネジメントしていきます。その上で市場環境なども踏まえながら、クライアントと価格交渉を進め、最終的な条件決定までサポートします。

条件決定後、クライアントから投資銀行の収益源である手数料を受け取ればディールがクローズとなり、その案件のプロダクト部門の役割は完了です。

ただし、ファイナンス部門ではディールクローズ後の仕上げの一環として、ディールの状況報告を行うのが慣例となっています。ディールがしっかりと完遂されたことを示すことで、今後の営業活動に役立てる目的があり、カバレッジ部門の人間と同行して御礼とともに報告を行います。

主要プロダクトの特徴:M&A

投資銀行ビジネスで主要に扱うプロダクトは大きく4種類に分かれます。外資系や中規模のハウスの場合は、全てのプロダクトを扱っているとは限りませんが、日系大手では全部門が配備されているのが通常です。

まず、業界未経験者が投資銀行ビジネスとしてよくイメージされるのがM&Aでしょうか。しかし実はM&Aは投資銀行の中では「投資家需要」が関係しないという点でやや異質なプロダクトでもあります。(厳密にはM&Aの一形態である公開買付(TOB)の場合は関係しますが、M&Aの細かい形態については今回は割愛します)投資銀行が M&Aを扱うのは、株式の売買を経る際に証券会社の免許を持っている投資銀行がアドバイザリーを行う方がスムーズかつ効率的であるためです。

一方で、M&Aはディール開始からクローズまで長い期間がかかります。スムーズに売り手企業・買い手企業がお互い見つかったとしても半年程度はかかるのが一般的。プロダクト部門はカバレッジが潜在的なM&Aニーズをつかんだのち、まずノンネームベースで買収対象企業の候補と大まかなスケジュール、費用などを提案します。

正式にアドバイザリー指名を受けたのちは買収価格の試算や買収・売却両企業の間に入って交渉を行います。やがて両者がM&Aを進めることを合意したところで「基本合意書」を締結。その後デューディリジェンスと呼ばれる、買収相手の企業の審査や、具体的な買収価格の交渉を経て最終合意に至ります。

この一連の流れを、必要に応じてバックオフィスの部署や会計士・弁護士などともコンタクトしながら、基本的にはプロダクト部門の担当者がディールを進めていきます。

主要プロダクトの特徴:エクイティキャピタルマーケット(ECM)、デットキャピタルマーケット(DCM)

ECMとDCMはともに企業のファイナンスのディールを担当するプロダクトで、ECMが株式、DCMが債券担当の部署となります。株と債券は有価証券の商品性としては大きく異なるものの、有価証券のファイナンスを完遂させる部署ということでECM、DCMのディールの進め方は似ているので、今回は2つのプロダクトを一緒に説明します。一般的にどの有価証券でファイナンスを行うか、まではカバレッジの提案の中で具体化します。

株式もしくは債券でのファイナンスを進める方向性が見えてきたら、該当する部署がカバレッジとともに提案に行きます。

提案では発行する有価証券のターゲット条件や発行額、スケジュール、発行される有価証券を円滑に販売するための販促活動であるIR(投資家への訪問による販促活動)をはじめ各種販売方法などを示します。クライアントの財務状況や、すでに流通している有価証券へのインパクトなどを踏まえて、最適な条件を提案します。

クライアントはファイナンスを進めることを決めると、ファイナンスを進めてもらう証券会社を選択します。これを「主幹事指名」といい、1社の場合と複数社の場合があります。主幹事指名を受けた後は、プロダクト部門が主体的にディールを進めていきます。

IRをセッティングしつつ、バックオフィスとディールの審査や文書作成関連のコミュニケーションを開始します。またシンジケーションという市場部門にアクセスすることができる専門チームと連携して、投資家の潜在需要を確認します。

潜在需要をもとに、有価証券が円滑に販売できるような発行条件(株式なら株価、債券は利率)をクライアントと交渉していきます。やがてクライアントが条件を承諾したところで条件決定となります。条件決定後、発行した有価証券が無事投資家に販売されたところでディールはクローズとなります。

主要プロダクトの特徴:公開引受(IPO)

一般的にディール期間が最も長期化する傾向にあるのがIPO。ディールの期間は少なくとも1年程度、上場準備が難航した場合は数年に及ぶ場合もあります。こちらもカバレッジによって上場の意思がある程度固まったところでカバレッジと同行してプロダクト部門が提案活動に入ります。

ある程度クライアント側で検討がすすんでいる場合もありますが、上場候補となる市場や想定される株式の発行条件、発行までの大まかなプロセスなどを提示します。

クライアント側で意思決定がされたのちにクライアントは主幹事指名を行います。IPOもアドバイザリーフィーはありますが、上場後に発行株式を売却することで手数料収入が得られるため、アドバイザリーフィーは少額になることが多いようです。アドバイザリーも行いますが、一般的にはECM、DCM同様「主幹事」と呼ばれます。

IPOの公式な手続きは上場を予定している市場の審査を受けるところがスタートですが、ほとんどの場合、クライアント企業がいきなり審査を通過できる状況にはなっていません。従ってIPOのメンバーが最初に行うことは、上場審査を通過させる上でクライアントに解決してもらう課題を洗い出すことです。

約款など規約面、組織の整理や企業業績の向上、今後の企業成長のビジョンの策定など、多くの場合やることは多々あります。弁護士や会計士の助言ももらいながら、上場審査を通すために必要なポイントをクライアントに提案し、またその後はクライアントの課題解決をサポートしていきます。

クライアントの課題解決が一通り見えてきたら、上場審査の準備を進めます。該当する証券取引所への申請や各種書類の取りまとめなどを、やはりクライアントや専門家とコミュニケーションを取りながら進めます。上場審査の通過が見えて来たあたりから、ECMとも連携して発行する株式の価格を検討するために潜在的な調査を始めます。

上場が公表出来る段階になったところでブックビルディングと呼ばれる公式な需要調査を行います。この後はECMにも似ていますが、しっかり需要が確認される株価水準に絞り込んで、株の上場と、株式の販売をして、IPOのディールは完了です。

プロダクト部門で求められるスキル〜営業力とマネジメント能力の両立〜

最後に、プロダクト部門の社員に求められるスキルセットについて、簡単にご紹介します。プロダクト部門は、カバレッジと異なり「営業職」とみなされる部門ではありませんが、以上のように、各プロダクトに関する提案営業から始まるのが一般的です。

取り扱うディールのジャンルは限られるとはいえ、高い営業能力がある方が明らかに有利です。実際のところ、他の金融の営業経験者が転職・異動してきて活躍することも珍しくありません。クライアントとうまくコミュニケーションを取り、自社のディールの優位性を適切にアピールして、ディールを勝ち取る、まさに提案力・コミュニケーション能力が必要です。

その裏で、特定プロダクトの専門性を高めていく必要があります。自分の属する部署が扱うディールのプロフェッショナルとして、クライアントへの助言や、効率的なディール運営のために深い知見をつけておかなければなりません。証券アナリストや公認会計士といった難関資格を取得してベースとなる専門知識を蓄えている方も多いです。

また、ディールのマネジメント能力も必要とされます。ディールは自分の部署内の人間だけでなく、クライアント・社内のシンジケーション(もしくはその先にいる投資家)、弁護士・会計士などの専門家など、多数の関係者が関わってきます。その中で、ディールを円滑に進行させていく役目はプロダクト部門の人間です。したがってコンサルのプロジェクトマネジメントのような能力が求められます。

元コンサルの方などは、経験プロジェクトにもよりますが、プロダクト部門に必要な対クライアントの営業能力とプロジェクトマネジメント能力をともに有している方が多い印象です。プロダクトの専門性についてはキャッチアップが必要ですが、ベースとなるスキルセットとしてはプロダクト部門にマッチしているケースが多いといえます。

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>投資銀行のキャリアに関する記事

「投資銀行」とは何か?わかりやすく解説【種類から存在意義まで】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/whatinvestmentbank

投資銀行(IBD)と資産運用会社(アセマネ)の違い【両セクターの経験者に訊く】
https://www.axc.ne.jp/media/careertips/investmentbankassetmanagement

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プロダクト部門は投資銀行がディールを行い、また収益を獲得していく上で軸となる部門です。まさに投資銀行で執り行うと一般的にイメージされるM&Aやファイナンスの中心を担います。この部署でキャリアを積むと、特定プロダクトの専門性を高めることが可能です。株・債券・M&A、どの専門性も非常に付加価値の高いものですので、プロダクト部門の経験は自身のキャリアにとって大きな財産となるでしょう。

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